米海兵隊は何故、過去 14 年間で新しいスナイパーライフルを採用することが出来なかったのか
ワシントンポストに『 Why the Marines have failed to adopt a new sniper rifle in the past 14 years(米海兵隊は何故、過去14年間で新しいスナイパーライフルを採用することが出来なかったのか)』と題したレポート記事が掲載されている。現役海兵隊軍曹や元関係者、匿名で取材に応じた隊員たちの談話を基に構成されており、有効射程距離の短い旧型のスナイパーライフル:M40に苦慮する現場の状況や要望が記されている。
「アフガンでは、自軍のスナイパーライフルより射程の長い敵火力(重機関銃)に包囲されることが暫しあり、航空機や砲兵の支援射撃に頼ることになった」と Ben McCullar 軍曹は戦地での様子を振り返っているが、そのような状況は彼らの部隊に限った話ではないようだ。海兵隊は、古い装備を使い続けることで知られており、たとえ時代遅れになったとしても“海兵隊が定めた基準を満たすスペックで作動可能”であれば更新もしくは維新されることはない。湾岸戦争時には、陸軍に当時新型のM1A1エイブラムズ戦車が導入される中、海兵隊は旧型のM60パットン戦車で闘っていた。そして、2003年のイラク戦争開戦時に海兵隊スナイパーたちの多くが手にしていたのは、1966年から使い続けていたM40A1ライフルであった。装備の劣位性は兵士にとって死活問題でありながら、海兵隊軍部の“必要範囲内のスペックを遵守する方針”は変わることが無い。
戦況を左右しかねないこの問題の原因とされるのが、海兵隊の武器入手プロセスを変えさせようとしない一部の頑固な官僚機構にあるようだ。さらに、スナイパーチームは、海兵隊組織の中ではとても小さなコミュニティーであることから、彼らの不満や訴えが上層部の耳に届かないことも挙げられる。
こういった現場の不満とは裏腹に、海兵隊システム司令部:MCSC( Marine Corps Systems Command )は「M40シリーズを交換するために幾つかのオプションを評価したが、M40は運用上の要件を満たしており現状に問題は無い。」と声明を出している。このような頑なな姿勢を通す背景には、M40の製造・保守を行っている海兵隊内の銃器製造セクション:PWS( Precision Weapons Section )の存在があり、もしもM40が不要になれば、主に海兵隊職員で構成される PWS の存続が危機をむかえる事となる、という見方もあるようだ。
海兵隊クアンティコ基地の元スナイパー教官であり MCSC の元コントラクターであった Chris Sharon 氏は、この問題の解決策として、米特殊作戦軍( U.S.SOCOM )が現在導入している PSR( Precision Sniper Rifle )に準ずるモノを民間銃器メーカーから購入すべきだと主張している。PSR は、2008年から米特殊作戦軍が行った.300 Winmag弾もしくは.338弾を使用する高精度スナイパーライフル導入に向けたトライアルで、レミントン社製シングルボルトアクションライフルのレミントン MSR( Modular Sniper Rifle )が採用されている。Chris Sharon 氏は、飛距離が出る大口径マグナム弾を使用できることと、価格がM40の半値であることを利点として挙げている。
このニュースを耳にした彼らは「我々は、世界で最高の狙撃を行い、あらゆる地形で最も恐れられるハンターである。しかし、我々が次に戦地へ赴く際には、ナイフで銃撃戦に挑むという過酷な方法を学ぶ必要があるようだ。」という言葉で記事を締め括っている。
Washington Post 2015/06/13
Text: 弓削島一樹 - FM201506
現在配備されているM40A5の有効射程距離は1,000ヤードとされているが、主戦場である中東地域では敵火力の方が距離的優位性に勝っており、これでは話にならないと McCullar 軍曹らは語っている。陸軍では、2011年に制式スナイパーライフルカートリッジとして.300 Winmag弾が採用され、海兵隊が使用する.308弾より飛距離が300ヤード長く、同国の軍隊でありながら格差が生じている。また、イギリス海兵隊との合同演習の際には、.338弾を使用し射程1,600ヤードを誇るL115A3に打ちのめされたとのこと。NATO同盟国の殆どの軍隊が.300 Winmag弾もしくは.338弾を導入しており、海兵隊だけが遅れを取っている。合同演習に参加していた MSOTG( Marine Special Operations Training Group )の元教官:J.D.Montefusco 軍曹は「我々がアフガニスタンで戦っている間に、.338弾を使用できるライフルが採用されるべきだった。」と語っている。
こういった現場の不満とは裏腹に、海兵隊システム司令部:MCSC( Marine Corps Systems Command )は「M40シリーズを交換するために幾つかのオプションを評価したが、M40は運用上の要件を満たしており現状に問題は無い。」と声明を出している。このような頑なな姿勢を通す背景には、M40の製造・保守を行っている海兵隊内の銃器製造セクション:PWS( Precision Weapons Section )の存在があり、もしもM40が不要になれば、主に海兵隊職員で構成される PWS の存続が危機をむかえる事となる、という見方もあるようだ。
M40は、レミントンM700の発展モデルとして海兵隊内で独自開発されたモデルであるのに対し、陸軍などが使用しているM24は、同じ発展モデルではあるがレミントン社が開発を行った。M24シリーズには、.308弾 /.300 Winmag弾 /.338弾に対応したモデルがあるのに対し、M40シリーズは.308弾のみであり、同じレミントンM700をベースにしながらも似て非なる存在と言える。
海兵隊クアンティコ基地の元スナイパー教官であり MCSC の元コントラクターであった Chris Sharon 氏は、この問題の解決策として、米特殊作戦軍( U.S.SOCOM )が現在導入している PSR( Precision Sniper Rifle )に準ずるモノを民間銃器メーカーから購入すべきだと主張している。PSR は、2008年から米特殊作戦軍が行った.300 Winmag弾もしくは.338弾を使用する高精度スナイパーライフル導入に向けたトライアルで、レミントン社製シングルボルトアクションライフルのレミントン MSR( Modular Sniper Rifle )が採用されている。Chris Sharon 氏は、飛距離が出る大口径マグナム弾を使用できることと、価格がM40の半値であることを利点として挙げている。
しかし、関係者たちのこのような声はやはり届かないのか…海兵隊は、有効射程距離が同じで形状を変更しただけの“ M40A6 ”にマイナーチェンジすることを最近決定したとのこと。
このニュースを耳にした彼らは「我々は、世界で最高の狙撃を行い、あらゆる地形で最も恐れられるハンターである。しかし、我々が次に戦地へ赴く際には、ナイフで銃撃戦に挑むという過酷な方法を学ぶ必要があるようだ。」という言葉で記事を締め括っている。
Washington Post 2015/06/13
Text: 弓削島一樹 - FM201506
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