元フランス外人部隊衛生兵・野田力氏による「アフガニスタン戦場救命」講話会が開催

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「衛生兵」という兵科の存在は多くの人が知るところだ。古くは72年のTVドラマ「マッシュ」が野戦病院を舞台としているし、先日公開された映画「ハクソー・リッジ」は実在の衛生兵を主人公としている。「衛生兵ルール」のサバイバルゲーム中に「Medic!」と叫んだことがある人もいるだろう。誰もが知っている彼らの実際の姿について、フランス外人部隊の衛生兵として戦地に派遣された経験をもつ野田力(りき)氏の講話会が開催された。

アフガン派遣時の野田氏
■元フランス外人部隊衛生兵・野田力氏
野田氏は2004年にフランス外人部隊入隊。隊内唯一の空挺部隊である第2外人落下傘連隊に配属され戦闘訓練を受けた後、2006年に衛生兵としての教育を受けた。ジブチ、ガボン、そして2010年にアフガニスタンに派遣され2011年に除隊。帰国後は自分の経験をブログや講演を通じて日本の医療関係者・警察官・自衛官に伝え続けている。

衛生兵:野田力 公式Twitter
https://twitter.com/NODA_Liki

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    ■衛生兵とは何か
    外人部隊の中でもパラシュート連隊の戦闘中隊における衛生兵は、小銃手として部隊の火力の一部となる一方、万が一負傷者が発生した場合は応急処置を行い、さらに高度な医療施設に搬送する役割を持つ。ちょうど日本の消防における救急隊員をイメージすると分かりやすいだろう。

    アフガンに派遣された野田氏の中隊では中隊医療班に軍医1名(少佐)、看護官1名、衛生兵2名、加えて3個小隊に衛生兵各1名ずつ、中隊長班に衛生兵1名という構成になっている。



    戦場を職場とするだけにその技術や知識は特殊なものが必要となる。銃弾や爆発物など特殊な原因による負傷に対処しなければならないし、他にも体力の低下による風邪や下痢、寒冷地では凍傷、熱帯ではマラリヤ予防のための蚊対策など、負傷以外にも準備しなくてはならないものが多い。何より「ケガをしても助けてもらえる」と安心させ、部隊の士気を維持するのが衛生兵の仕事である。

    そして野田氏によれば、戦場での救命措置は一般社会のそれとは違った難しさがあるという。

    ■戦場での救命措置の難しさ
    野田氏によれば、戦闘時に負傷者が発生しても、すぐに救出はせず、まずは応戦する必要があるという。銃による負傷者がいる地点は敵の火線が通っている場所であり、まず脅威を排除しなければすぐ二次被害につながることは想像に難くない。

    こうした手順はSAFEという単語で簡潔にまとめられている。敵を無力化し、現場と自身の安全を確保した後、症状を評価して対応するか否かを決める、という手順だ。

    S…Stop the burning process = 脅威の無力化
    A…Assess the scene = 現場状況の把握
    F…Free of danger for you = 自身の安全を最優先
    E…Evaluate for the ABC = 症状の評価

    とはいっても、一筋縄ではいかなのが戦傷治療である。刻一刻と状況が変化するし、爆発物で複数人が一気に負傷して衛生兵のワークロードが飽和するということもある。IEDでの負傷の場合は第2、第3のIEDの存在が考えられるため安全を確保するのが難しい。ポーチやポケットに入れていた医療キットが爆発によって吹き飛んでしまったり、そもそも衛生兵が負傷するというシナリオもある。

    このため衛生兵以外の個人も最低限の応急手当の知識と医療キットの携行が必要であるという。野田氏の部隊では新兵が配属されると、まず止血帯やイスラエルバンデージによる止血方法が教えられていたという。

    全員に支給される救急医療キット


    ■進化する戦傷医療技術と装備
    戦場救急で必要な処置は「MARCHE」という略語でまとめられている。すなわち

    M…Massive Bleeding Control = 大量出血の制御
    A…Airway = 気道確保
    R…Respiration = 呼吸
    C…Circulation = 循環
    H…Hypothermia = 低体温
    E…Evacuation = 搬送
    である。そしてそれぞれに対応した装備や技術が日々開発・教育されている。

    特に重視されるのが止血の方法である。フランス軍ではSOF TACTICAL TOURNIQUET(SOFTT)が全員に支給されている。他にもイスラエルバンデージ(圧迫止血用具)や各種の止血剤などがある。これらの扱いに習熟することはもちろんだが、そうした専用の装備が失われた際は単純なロープや包帯などその場にある道具によっても止血ができなければならない。


    各種止血帯。様々なものがあり使い方が微妙に違うため、研究が必要になる。

    他にも例えば気胸の際に用いるチェストシールや脱気針などは、何を用いれば代用することができるかといったアドリブのノウハウも、戦傷医療では重要である。

    止血剤やチェストシールなど。こちらも官民様々なものが存在している。

    医療用装備を搭載した「救急車」として使用されていた車両。

    野田氏達衛生兵はこうしたノウハウについて情報交換を行っており、アフガニスタンでは制式装備以外にも使いやすいものを選んで携行していたという。

    アフガニスタンでは私物装備として医療キット用バックパックを使用していたという。

    「止血帯は見えるところにわかりやすく携行する」「体の同じ部位に荷物を集中させない」「パックの袋はちぎりやすいように事前に処理しておく」など医療に関する戦場訓は伝播が速く、正式な装備へのフィードバックも早いようだ。

    低体温を防ぐための「ブリザードブランケット」。登山用品のメーカーが開発したもの。

    例えば搬送に用いる「担架」はその一つだ。軽量で携行しやすく、いざという時にぱっと展開できる担架がなければ、戦場からの搬出が難しい。

    Tactical Medical SolutionsのFoxtrot Litter。

    こちらはFilet Brancardやネットリッターと呼ばれるウェビングを使用した担架。布担架のように生地が裂けず、軽量でコンパクト。日本でも商品化されている。

    処置中の小銃の扱い方ひとつとってもノウハウがある。ナイトビジョンを使用した場合、血液や道具がどういう見え方をするのか事前に試しておくのも重要であるという。

    ■戦場の衛生兵
    こうした準備を周到に行っていても、戦傷者を救えるかどうかは分からない。野田氏の話で最も印象的だったのは、衛生兵のマインドセットとして「淡々と仕事をすることで回避可能な死を回避すること」を強調していた点だ。

    複数人が一気に負傷した場合のトリアージや、どう見ても助からない負傷者が発生した時に人手を割いて治療をするかどうかの判断は、人の命を天秤にかける究極の、そして正解のない問いである。

    衛生兵を含め、医療者は多くの人の死、残された人達の感情に接することになるが、これに惑わされることなく、判断をし続ける必要がある。野田氏は突発的な銃撃戦で部隊に負傷者が出た際「演習をやっているようだ。うまくやらないとな」と感じたという。戦士としての情熱や敵に対する憎しみではなく、一歩引いた客観性が衛生兵に求められる資質なのであろう。

    また、衛生兵ならではの戦い方もある。アフガニスタンでは現地住民に武装勢力の人間が紛れ込むケースが多い。こうした際に衛生兵であれば医療支援という形で現地住民の中に入り、信頼と敵の情報を得ることができる。味方に安心を与えるだけでなく、部隊の能力の多様性を高め選択肢を増やすことができる衛生兵の存在意義はこれからますます高まっていくだろう。

    Photo & Text: Chaka (@dna_chaka)
    Chaka (@dna_chaka)
    世界の様々な出来事を追いかけるニュースサイト「Daily News Agency」の編集長。


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