特集:米軍特殊部隊 ― アメリカ海兵隊特殊部隊 MARSOC「レイダース」編

海外軍事レポート

Photo by Vance Jacobs.
Marine Raiders conduct simulated partner nation training during pre-deployment exercise RAVEN. May, 2015.
アメリカには陸軍・海軍・空軍・海兵隊という4つの軍があり、そしてそれぞれに特殊部隊を持っている。これらの特殊部隊の最新ガイドラインの内容を何度かに分けて紹介し、現在の彼らの姿を明らかにすることにしたい。

「特殊部隊」とは何をする部隊なのか
重武装で敵地の奥深く浸透し、敵司令中枢に大打撃を与えて帰還する……特殊部隊といえばこのようなイメージを持っている人も多いだろう。しかしこうした「直接行動(DA)」は特殊部隊の任務のごくごく一部に過ぎない。近年の「テロとの戦い」で彼らのDAに関するレポートが目につくようになったが、実際の任務は広範にわたるものである。

現在の特殊部隊の任務は、ベトナム戦争のころまでCIAが中心になって行っていた。彼らは暗殺、誘拐、重要施設の破壊活動、偵察、現地民ゲリラの育成、現在でいうところのFID(海外国内防衛)などを行い、軍はこれをサポートする立場だった。しかし、軍事的技術・ノウハウの高度化により軍に主導権が移っていくこととなる。陸軍特殊部隊、通称「グリーンベレー」はまさにこうした浸透工作を行う部隊である。

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    MARSOCを生んだ9.11同時多発テロと「全地球的テロとの戦い」
    MARSOC創設のきっかけとなったのは2001年のいわゆる9.11同時多発テロ事件である。首謀者とそれを後援する組織を撃滅するため、米軍は史上最大規模の特殊作戦部隊を投入し、捜索を開始した。

    すぐに問題となったのはOPTEMPO、部隊投入の頻度である。休暇のサイクルは破綻し、人員・装備の消耗がすぐに問題となった。また本来の任務である浸透工作活動が行えず、DAに偏っていたのも問題視された。

    特殊部隊の増強は非常に難しい。優秀な人材はいきなり増えないし、育成期間も短くすることはできないからである。海兵隊には当時、海兵遠征軍(MEU)のうちのいくつかがSOC(特殊作戦遂行能力)認定を受け、アフガニスタン・イラクの各戦場に投入されていた。また、いわゆるフォースリーコン部隊は、準特殊部隊と言えるレベルの能力を獲得していた。

    これに加えて、浸透工作など既存の特殊部隊が行っていた後方での作戦活動を行う部隊を発足させ、マンパワーの不足を補おうというのが海兵隊特殊部隊MARSOC創設のきっかけとなる。2001年11月、SOCOM内で委員会が発足し実証実験が行われることになった。

    MARSOCの成立
    MEU・フォースリーコンはSOCOM部隊のサポートを行ってはいたものの、やはりSOCOM隷下でないことが連携の妨げになったこともあるようだ。MARSOCの成立はSOCOMの文化を学ぶこと、特殊部隊としての能力を獲得することの2つが必要であった。

    前者について、MARSOCはMCSOCOM(USMC/USSOCOM Det)、いわゆるDet-One(第1分遣隊)を海軍特殊部隊に組入れ、ノウハウを学ぶべく訓練を行った。2003年頃のことである。Det-Oneは現在のMARSOCの組織の原型となっており、独立して作戦を行う能力があるか実証する部隊であった。

    後者については2005年10月、第2海兵遠征旅団下に、海外の軍を訓練する能力を有するFMTU(Foreign Military Training Unit)が創設され、2007年にMSOAGとしてアフガニスタンに派遣された。

    その後2009年に海兵特殊作戦連隊(MSOR)に改組、Det-Oneを組み入れ2006年にMARSOCが成立、その後増強を繰り返しながら現在の形になっている。2015年には第二次世界大戦中に存在した勇猛な部隊の名をとり「レイダース」に改名された。本稿では「MARSOC」と記述する。

    関連記事:
    米海兵隊の特殊作戦部隊 MARSOC が創設 10 周年を刻む

    MARSOCの任務
    SOCOMがMARSOCの任務として規定しているのは以下の8つの任務が割り振られている。

    1. Direct Action - DA(直接行動)
    2. Special Reconnaissance - SR(特殊偵察)
    3. Counterterroism - CT(対テロ)
    4. Foreign internal defence - FID(海外内部防衛)
    5. Security force assistance - SFA(保安部隊補助)
    6. Counterinsurgency - COIN(対反乱活動)
    7. 大量破壊兵器捜索・対応支援
    8. 非正規戦闘支援

    ドミニカ共和国軍を訓練するMARSOC。いわゆるFIDの典型的な例である。

    DVIDS - Images - Dominican Republic Commandos Train With U.S. Marines, Improve Regional Security

    これら以外に、他軍の特殊部隊と協同して人質救出、海外人道支援、軍事情報支援活動、民軍作戦などを行うこともある。

    MARSOC連隊(MSOR)の組織
    現在、MARSOC連隊司令部はノースカロライナ州キャンプ・レジューンにおかれ、3個大隊編成、軍属合わせて約2600人という規模となっている。編成は以下の通り。アフリカ、中東、太平洋をそれぞれ受け持つ大隊と、それぞれを兵站面からサポートする支援群、そして育成を行う特殊部隊学校というのが主な要素である。

    基本的には大隊(MSOB)と支援群(MSOSG)がセットになって運用される。直接的な行動はMSOBが、兵站や支援砲撃、情報収集などはMSOSGが担当している。ただし、特殊能力をもつユニットは切り離され、柔軟な「貸し借り」を行うこともある。


    海兵特殊作戦中隊(MSOC)
    大隊に4個編成された中隊(MSOC)は大隊の一部として行動する他、情報収集・通信・支援パッケージを追加された「Enabled MSOC(増強大隊)」となることもある。「Enabled MSOC」には支援群から以下の能力を持つ中隊、ないしはチームが追加され、各地方軍司令官の指示のもと、独立して作戦行動をとることができる。

    ・爆発物処理(EOD)

    ・統合末端攻撃統制(JTAC)……航空支援・空挺降下の誘導

    ・多目的犬(MPC)……攻撃、爆発物の発見、追跡等

    ・指揮・統制・通信・コンピューターサポート(C4ST)……作戦用音声・動画・データネットワークの整備構築・維持など

    ・直接支援チーム(DST)
    あらゆるソースを元に情報を収集・分析し指揮官の判断をサポート。MARSOCは基本的に海外駐留経験者のみで構成されており、また独自の情報網をもっているためDSTはこの利点をフルに活用している。DSTはより小さなDSE(直接支援エレメント)に分割し、戦術レベルでの情報収集を行うこともできる。
    以下に支援パッケージを追加した増強中隊の組織図を示す。

    海兵特殊作戦支援群(MSOSG)
    大隊をあらゆる面からサポートすることを任務としている。それぞれの特殊作戦大隊に対して、一つの支援群大隊(MSOSB)が支援を行うのが基本であるが、それぞれを構成する中隊は特殊作戦中隊や、あるいは他の支援群大隊に容易に組み入れることができる。例えば、キャンプ・レジューン駐留の第に2支援群大隊には情報支援チームがないが、これは第3大隊と「兼用」になるためだ。


    特殊作戦中隊を増強中隊とすべく、ユニットを切り離して中隊に同行させ、様々な作戦能力を与えることもある。全員が同じ訓練・同等の能力をもつ特殊部隊ならではのフレキシブルさである。

    海兵特殊作戦学校(MSOS)
    海兵特殊作戦学校(MSOS)はMSORの人員の採用・教育を行う教育機関である他、MSORで用いられるすべての戦術・装備について、統合特殊作戦大学など外部の諸機関と連携して評価を行う研究機関である。また、近年全軍の特殊部隊で行われているPOTFF(部隊員と家族の福祉向上のためのケア活動)を統括する機関でもある。

    MARSOCへの採用とキャリアパス
    海兵隊は小さい組織ながら外部からの独立性が高く、内部に様々な部署を経験した人材がいる。また、基本的には全員が海外駐留を経験している。MARSOC要員はこの中からリクルートされ、主にSOO・CSOとSOCSという2つのルートで配属される。

    MARSOC広報による採用過程の紹介動画
    What it takes to be a MARSOC Marine Raider - YouTube

    SOO(Special Operations Officer)/CSO(Critical Skills Operator)
    行動部隊の中心となる「ザ・特殊部隊員」である。SOOは士官として部隊を指揮する立場となるが、SOO・CSOとも同等の選抜試験・育成訓練を受けることになる。典型的には21日間の選抜評価試験フェーズ1、19日間の選抜評価試験フェーズ2を経て選抜され、34週間のITC(個人訓練課程)で特殊部隊員としての教育を受ける。修了者には0372MOS(CSO)が与えられる。

    その後は言語学校24週間、士官は指揮官コース4週間が行われ0370MOS(SOO)を取得、3週間の空挺課程を経て部隊に配属となる。その後も応用的な技術に関する教育は随時行われる。

    こちらが典型的なSOO・CSOの選抜・教育課程である。


    ITCフェーズ1(タイトルは2であるが、動画の説明文は「1」となっている)の水陸両用戦能力の訓練の様子。
    ITC: Phase 2 - YouTube

    SOO・CSOの初期教育課程では以下のような能力を身につけることになる。
    ・情報収集作戦
    ・特殊偵察(捜索作戦などを含む)
    ・爆発物、狙撃等の射撃能力
    ・通信機器を用いた経路の構築
    ・基礎的な工学知識
    ・エアアサルト、フリーフォールなどの空挺能力
    ・水中作戦能力
    ・車両運転技術
    ・作戦地域の言語・文化への理解
    ・山岳戦・ジャングル戦能力

    SOCS(Special Operations Capabilities Specialist)
    爆発物処理や通信、情報収集能力などを持つスペシャリストである。選抜は対応する技能(NMOS)を持ち、かつ駐留経験のある海兵隊員の中から行われる。3週間の特殊作戦訓練課程(SOTC)、19日間のLevel C SERE(生存・脱出・抵抗・逃走)訓練を経たあと、それぞれの特殊能力に応じた訓練が行われ、修了すると8071MOS(SOCS)が与えられる。部隊に配属になった後も、その特殊能力故に一般部隊との行き来も発生する。

    SOCSでは以下の技能から選んで習得することになる。
    ・EOD(爆発物処理) 6週間
    ・通信 13週間
    ・情報収集 14週間
    ・JTAC 4週間
    ・多目的犬(MPC) 10週間
    ・医療/衛生(SARC/IDC Corpsman)13ヶ月

    「すべての海兵はライフル銃手である」という言葉の通り、海兵隊は均質な人材が小さく緊密な組織を作り出しており、MARSOCのユニークさもそこにある。

    当初は縄張りを荒らされたかっこうの陸軍特殊部隊とのあつれきもあったようで、2007年にアフガニスタンで発生した市民誤射事件では陸軍高官からメディアに向けて批判的なコメントが相次ぎ、自粛を申し入れるといった出来事もあった。今ではシリアで行動をともにしているところが目撃されるなど、MARSOCはその存在感を徐々に示し始めている。

    関連記事:
    シリア潜入取材中のフランスメディアの捉えた米軍特殊部隊員の活動映像が独占公開中


    Text & Graphic: Chaka (@dna_chaka)
    Chaka (@dna_chaka)
    世界の様々な出来事を追いかけるニュースサイト「Daily News Agency」の編集長。


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