スピルバーグ監督の名作「プライベート・ライアン」の戦闘シーンを解説する映像が公開中

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スピルバーグ監督の名作「プライベート・ライアン」の戦闘シーンを解説する映像が公開中
ノルマンディー上陸作戦を舞台とした戦争映画「プライベート・ライアン」の冒頭シーン:オマハ・ビーチ上陸を解説した動画『Saving Private Ryan: How Spielberg Constructs A Battle Scene 』が、Youtube の Nerdwriter1 チャンネルで公開された。同チャンネルは、映画などの解説動画を毎週アップしている。
スピルバーグ監督の名作「プライベート・ライアン」の戦闘シーンを解説する映像が公開中
Photo: Theatrical release poster

映画「プライベート・ライアン」
スティーヴン・スピルバーグ(Steven Spielberg)監督がメガフォンを執った「プライベート・ライアン」は、米国防省が定めたソウル・サバイバー・ポリシー(Sole Survivor Policy:唯一の生存者規定)に基づく特命を受けたミラー大尉(トム・ハンクス = Tom Hanks)の部隊が、ノルマンディー地方に降下した落下傘兵ライアン(マット・デイモン = Matt Damon)の救出に向かう物語である。実在したナイランド兄弟(Niland brothers)の逸話が脚本のベースとなっている。アカデミー賞11部門にノミネートされ、監督賞、編集賞、撮影賞、音響賞、音響編集賞を受賞し、1998年全米年間興行成績1位を記録している。また、2014年には、“文化的、歴史的、美学的に重要である”として米国議会図書館の国際映画登録簿に選出された。

スピルバーグ監督の名作「プライベート・ライアン」の戦闘シーンを解説する映像が公開中
Photo: Public domain; official U.S. Coast Guard photograph

ノルマンディー上陸作戦
ノルマンディー上陸作戦 = Invasion of Normandy(正式名称:ネプチューン作戦 = Operation Neptune)は、第二次世界大戦中の1944年6月6日(D-デイ = D-Day)に独軍占領下のフランス・コタンタン半島ノルマンディー海岸で連合軍によって行われた侵攻作戦である。1943年1月から同作戦の立案が始まり、連合国遠征軍最高司令官にドワイト・アイゼンハワー米陸軍大将(Dwight Eisenhower)、地上部隊最高司令官にバーナード・モントゴメリー英陸軍大将(Bernard Montgomery)が任命された。

史上最大規模と言われれる同侵攻作戦には連合軍約200万人が参加し、空挺部隊(英軍第6空挺師団、米軍第82・第101空挺師団)の夜襲空挺作戦(トンガ作戦 = Operation Tonga)を皮切りにノルマンディー海岸の敵陣への空襲と軍艦130隻による艦砲射撃が行われ、午前6時30分に上陸用舟艇4,000隻によって上陸が実行された。上陸ポイントは5つに区分けされ、ユタ・ビーチを米軍第4歩兵師団、オマハ・ビーチを米軍第1歩兵師団、ゴールド・ビーチを英軍第50歩兵師団、ジュノー・ビーチをカナダ軍第3歩兵師団、ソード・ビーチを英軍第3歩兵師団が受け持った。

最も激戦となったのがオマハ・ビーチでは、多くの水陸両用戦車や上陸用舟艇がトラブルに見舞われたうえに、精鋭といわれた独軍第352歩兵師団からの猛攻撃を受け死傷者が増え続けた。更に、水際で足止めを喰らう中へ次々と後発隊が上陸したことで、上陸部隊は大混乱に陥った。死傷者数は4,000名(上陸部隊の50%)とも言われ、その余りにも凄惨な現場から“ブラッディ・オマハ”と呼ばれた。尚、各ビーチで最小死傷者数(197名)だったのがユタ・ビーチで、約23,000名が上陸に成功している。ノルマンディー地方の制圧には2ヶ月を要したが、ヨーロッパ戦線の転機となった作戦である。


「プライベート・ライアン」の映画冒頭にあたる上陸シーンは、峻烈を極めたオマハ・ビーチを舞台としており、凄惨な戦場をリアルに描き出したことで映画史に残る20分間として高く評価されている。ノルマンディー上陸作戦に参加した退役軍人が映画鑑賞後にPTSDを発症したとの報告を受け、専用のホットラインを設置すると二週間で170以上の相談が寄せられたというエピソードもある。“足りないのは臭いだけだ”と退役軍人に言わしめたほどに、リアリティーを追求した作品である。

動画『Saving Private Ryan: How Spielberg Constructs A Battle Scene 』は、上陸シーンの臨場感溢れる映像に至った経緯やその撮影手法について解説している。

解説を要約すると ――
●作品の狙いは、長期戦となった戦争の精神的苦痛や疲労を観客に疑似体験させることにあった。第二次世界大戦を描いた過去のハリウッド作品は兵士が英雄化されており、痛ましい経験をした現実の彼らとはギャップがあった。また、ノルマンディー上陸作戦を描いた傑作映画「史上最大の作戦」(原題:The Longest Day)【※1】では撮影に三脚が用いられことで、観客は映像と現実に距離を感じていた。スピルバーグは、“知ったつもりの戦争”と“現実に見て来た戦争”のギャップを埋めることを考えた。

●映画製作に役立てようと戦地の映像資料を探すが、ノルマンディー上陸作戦のものは非常に少なく、オマハ・ビーチ上陸中の映像は皆無だったため、ドキュメンタリー映画「壮絶!独伊<サン・ピエトロ>攻防戦」(原題:The Battle for San Pietro)【※2】と、ドキュメンタリー映画「ミッドウェイ海戦」(原題:The Battle of Midway)【※3】などを参考にした。これらの作品には、ハンディカメラによる戦場の臨場感溢れる映像が収められており、これを基に〝戦場にカメラが近づく”という撮影手法を取りれることにした。

●映画冒頭シーンは、24分間200カットで1カットあたり平均7.2秒だが、これはこの手の映像ではかなり長い方。しかし、それを感じさせない工夫が施されている。カット割りをせずカメラを左右・上下に向けたり移動させ被写体を追従している。例えばワンカットの中に、ワイドショット(背景を入れた全身)、ミディアムショット(上半身)、クローズアップショット(肩から頭)、インサート(補足・強調のための挿入)、パン(カメラの向きを振る)が巧みに組み合わされており、観客に的確な情報を与えている。更に、戦場カメラマン視点、トム・ハンクス視点、ドイツ兵視点、という三つの視点の切り替えが行われている。

補足解説

※1「史上最大の作戦」(原題:The Longest Day)
連合国軍のノルマンディー上陸作戦を描いた1962年公開の戦争映画。ジョン・ウェイン(John Wayne)、ロバート・ミッチャム(Robert Mitchum)、ヘンリー・フォンダ(Henry Fonda)などの豪華キャストを配し、1,200万ドル(当時のレート:43億円)の巨費を投じて製作され、米軍とNATO軍が協力している。米ジャーナリスト:コーネリアス・ライアンによるノンフィクション・ベストセラー「The Longest Day」を原作としており、ケン・アナキン(Ken Annakin)、ベルンハルト・ヴィッキ (Bernhard Wicki)、アンドリュー・マートン(Andrew Marton)の3人の監督が、英・独・米パートに分かれてメガフォンを執った。アカデミー賞の撮影賞と特殊効果賞を受賞している。


※2「壮絶!独伊〈サン・ピエトロ〉攻防戦」(原題:The Battle of San Pietro)
イタリアのナポリ北西のサン・ピエトロで1943年9月から展開された枢軸軍と連合軍との山岳戦を、至近距離から記録した1945年の戦争ドキュメンタリー作品。ジョン・ヒューストン(John Huston)監督ら撮影班は、米陸軍第36師団第143連隊に帯同し 最前線で命がけの撮影に臨んだ。ヒューストン監督は、1949年「黄金」でアカデミー賞監督賞と脚色賞を受賞し、「007 カジノロワイヤル」や「勝利への脱出」などを手掛けている。


※3「ミッドウェイ海戦」(原題:The Battle of Midway)
1930~60年代のアメリカ映画を代表する映画監督:ジョン・フォード(John Ford)が手掛けた1942年の戦争ドキュメンタリー作品(プロパガンダ映画)。第二次世界大戦の開戦を機に米海軍へ入隊し、戦略諜報局(OSS:Office of Strategic Services)の野戦撮影班へ参加。作品には、ミッドウェイ島滞在時にゼロ戦の奇襲攻撃を受けた模様が収められており、フォード監督はその撮影中に負傷している。太平洋戦線の他にヨーロッパ戦線へも赴き、ノルマンディー上陸作戦のオマハ・ビーチでも撮影を行っている。“The Battle of Midway”とその後に製作された“December 7th”は、アカデミー賞短編ドキュメンタリー映画賞を受賞している。


スピルバーグ監督の名作「プライベート・ライアン」の戦闘シーンを解説する映像が公開中
Photo By: Staff Sgt. Ethan E. Rocke
This photograph is considered public domain and has been cleared for release.
Hollywood, California - Retired Capt. Dale Dye, a decorated Marine veteran of the Vietnam War and senior military advisor on 'The Pacific,' speaks with media members on the red carpet at the Hollywood premiere of HBO's new 10-part miniseries.
「プライベート・ライアン」は作品にリアリティーを持たせる為、「プラトーン」のハリス大尉役など多くの作品で俳優・軍事アドバイザーとして活躍する元海兵隊大尉:デイル・ダイ(Dale Dye)が、トム・ハンクスら出演者のブートキャンプを受け持ち、当時の装備品を纏っての行軍など10日間に渡り厳しい訓練を行った。新兵らしさやライアンへの反感を強調するため、マット・デイモンはブートキャンプから意図的に外されている。

上陸シーンの撮影は、シーン予算1200万ドルを掛けてアイルランドで主に行われ、アイルランド陸軍兵士250名も含むエキストラ1,500名が参加し2週間に及んだ。また、航空機墜落の惨状を描くために20~30名の切断者がエキストラとして協力している。

他にも、リアルな描写への拘りは随所に見受けられる。カメラ三脚を用いず彩度の低い色のフィルムの使用した手持ちカメラ(ハンディカメラ)で撮影したことや、裂傷・爆死・炎上などの凄惨な負傷・戦死を描写するための特殊効果と特殊メイク、水中弾道や被弾の描写するための水中カメラ撮影、現地リエナクター協力による軍装品(本物もしくは精巧なレプリカ)、可能な限り用意された本物の兵器や車両、40樽(約4,760リットル)の血糊、等など抜かりが無い。

また、計算されたカメラワークとカット割りに加えて、実銃の発砲音、戦闘中に終始聴こえるM1ガーランドの弾薬クリップの排出音、弾薬類の炸裂音、一時的な難聴の描写、などの音響効果によって臨場感が更に増している。

こういった様々な拘りが結実し、映画史に残る名シーンが生み出されたと言える。

スピルバーグとトム・ハンクスは「プライベート・ライアン」の後に、ヨーロッパ戦線を舞台に米陸軍第101空挺師団第506歩兵連隊第2大隊E中隊の動向を描いたテレビドラマシリーズ「バンド・オブ・ブラザース」(2001年)や、太平洋戦争における米海兵隊第1海兵師団の隊員達の激闘を描いたテレビドラマシリーズ「ザ・パシフィック」(2010年)の製作総指揮を務めている。またスピルバーグは、クリント・イーストウッド(Clint Eastwood)監督作品「父親たちの星条旗」と「硫黄島からの手紙」でプロデューサーを務めており、自身の作品も含め第二次世界大戦を題材とした作品への関わりが多い。

Band of Brothers


The Pacific: Trailer

Text: 弓削島一樹 - FM201609
Translation: Yeah_pom - FM201609

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