特集:米軍特殊部隊 ― アメリカ海軍特殊部隊NSW編

海外軍事レポート

U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 2nd Class Meranda Keller/Released
「目立つ秘密作戦」というのは矛盾した表現だが、戦場ジャーナリスト達の活躍や、あるいは情報リークによるプロパガンダによって、近年その姿があらわになることが多い。中でも最も露出が多いのが、今回取り上げる「ネイビー・シールズ」こと、アメリカ海軍特殊部隊である。

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    海軍特殊部隊の成立
    それぞれの特殊部隊のユニークさはその生い立ちに現れる。海軍特殊部隊は第2次世界大戦中の1943年、上陸作戦の際に海中や砂浜の障害物を破壊するコンバット・ダイバーズの部隊をルーツとしている。彼らは建設部隊「シービーズ」の一部で、つまりは工兵の要素が強かった。1947年にはUDT(水中破壊チーム)となり、そして1960年、UDT達の中から一部が選抜され、不正規戦部隊であるSEALチームが誕生する。

    ベトナム戦争時はUDTが偵察任務を行いSEALチームが攻撃任務を担当していた。ベトナムは河川が多く、船舶を使った潜入に長けていた彼らは不可欠だったのである。UDTの一部はその後特殊潜航艇の運用を行うSDVチームや、追加訓練をうけてSEALに編入され、そして1987年、海軍特殊作戦司令部として現在に至っている。

    なお、海軍特殊作戦部隊を表す略語はNSWやNAVSOFなど揺れがある。海軍としてはNSWだが、その他特殊部隊の文化ではNAVSOFの方が馴染みがあり、使い分けているようだ。

    海軍特殊部隊の任務
    特殊部隊と一口にいっても組織構成や保有機材によって得意な任務や作戦規模には大きな違いがある。海軍特殊部隊はSOCOM隷下の部隊の中では最も幅広い環境に対応した部隊である。原子力潜水艦から輸送機まで、様々な手段を用いて侵入し攻撃・偵察を行うことを目的としている。

    海上降下、あるいは潜水艇から出撃したSEALs隊員。気泡が発生しない「クローズド・サーキット」方式の潜水具を使用している。

    フリーフォール降下を行う隊員。SEALs隊員は経路を選ばずに侵入が可能である。

    公式には以下の8つを任務としている。
    a. 直接行動(DA)
    b. 特殊偵察(SR)
    c. 海外内的防衛(FID)
    d. 対テロ活動
    e. 情報作戦
    f. 警備支援
    g. 対反乱活動
    h. その他大統領命令による活動

    その他近年は不正規戦や対麻薬戦、人質奪還等も行っているとされる。

    海軍特殊部隊は陸軍・海兵隊の特殊部隊と違い、単体で長期の作戦行動をとることはない。空軍と同じく、艦隊や地域別の統合軍、外部のタスクフォースに組み込まれることを前提とした組織構成となっている。

    これを無視すると大きな損害を出すことになる。89年のパナマ侵攻作戦「ジャスト・コーズ」の一部であった「ニフティ・パッケージ作戦」はその典型である。パナマの実質的指導者であったマヌエル・ノリエガ最高司令官の脱出を防ぐべく、デルタフォースとSEALチーム4がパナマシティ近くのプンタ・ペイティーラ空港を強襲した。作戦は一部成功したものの、空港警備隊との大規模な戦闘により4名の死者を含む多数の損害を出した。

    空港のような大規模な施設の強襲と確保は、専門性よりも規模が要求される。具体的には陸軍第75レンジャー部隊などに適した任務であって、SEALチームの仕事ではない。DAひとつとっても、保有機材や部隊規模によって向き・不向きがある。

    海軍特殊部隊の組織構成
    海軍特殊部隊は以下のような組織から成る。

    第1・第2海軍特殊作戦群(NSWG……Naval Special Warfare Groups)
    いわゆる「SEALチーム」を擁する部隊である。1個チームは300人ほど。これが戦闘部隊であるA~H小隊(各20人弱、3個分隊)とサポートチームを構成している。

    SEALとは「Sea, Air, Land」の略語で、つまりはあらゆる経路から侵入が可能なことを意味している。特にDAに強い、打撃力を重視した部隊である。要員は全員が以下のいずれか、あるいは複数の技術を身につけている。

    a. 情報収集
    b. 潜水装備整備・補修
    c. 電子機器
    d. 船舶運用
    e. 武器弾薬、航空支援(JTAC)
    f. 航空作戦機器整備補修
    g. 医療

    1個チームは以下のような構成である。CO、XOの下はフラットな組織になっている。それぞれの小隊は、3個分隊から成り立っている。

    派遣の際は任務に応じ、これらの小隊・分隊とサポート要員を組み合わせた部隊が作られる。規模が大きい順にNSWTF(海軍特殊部隊タスクフォース)、NSWTG(タスクグループ)、NSWTU(タスクユニット=C2+1個小隊以上+サポートの構成)、NSWTE(タスクエレメント=1個小隊+サポート)となっている。

    ところで、SEALsが行う偵察作戦については、非常にユニークな形で明らかになったことがある。92年、ソマリアへの人道支援を目的とした「レストア・ホープ作戦」の際、SEALsとMEUの偵察チームがCNNの撮影部隊に「待ち伏せ」されたのだ。チームは米軍の上陸ルートを確保すべく事前に海岸から侵入したのだが、その情報が漏れていたのである。

    Operation Restore Hope Beach Landing, Mogadishu Somalia - YouTube

    第3海軍特殊作戦群(NSWG)……SEAL Delivery vehicle Team(SVDT)
    特殊潜航艇SDV、潜水艦に搭載されたDDS(ドライデッキシェルター)の運用を行うチームである。

    SDV(SEAL delivery vehicle)。SEALs要員を輸送するための小型潜水艇である。長距離を泳ぐ必要がないため隊員の体力を温存できる。

    潜水艦の背中に搭載されたDDS。侵入地点近くまでは潜水艦で行き、ここからSDVを発進させる。

    第4海軍特殊作戦群(NSWG)……Special Boat Team(SBT)

    SBTはSOC-R等の小型船舶を使用しSEALsを支援する部隊である。最小単位であるSBTPはボート2隻とそのクルー、そしてメンテナンス支援チーム(MST)からなる。SBTの隊員はSWCC(Special Warfare Combatant-craft Crew……特殊作戦戦闘機材クルー)と呼ばれ、SEALsと同等の厳しい選抜と訓練を経て任務につく。

    主な任務は以下の通り。
    a. 侵入/離脱
    b. 沿岸警備と支援砲火
    c. C3
    d. 情報収集……船舶を傍受機器のプラットフォームとして運用するなど
    e. 輸送
    f. 非戦闘活動……災害時の避難・輸送支援、FID支援など

    こちらはSWCCの公式プロモーション動画である。制作したBandito Brothersは、これをきっかけに映画「ネイビー・シールズ」を撮影することになった。
    SWCC - Navy's Best Kept Secret - YouTube

    海軍特殊作戦センター(NSWCEN)
    SEALs要員の選抜と養成、そして個人の能力向上のための教育を施す機関である。

    海軍特殊作戦開発グループ(NSWDG)
    DEVGRUとも。装備や技術の開発・研究・評価を行う機関、とされているが海軍は組織の運用管理のみを行い、作戦指揮はJSOCが行う戦闘部隊であると言われている。

    海軍特殊部隊の採用と訓練
    空軍と同様、水兵としての経験は必要なく外部からでも志願できる。SEALs要員とSWCCではコースが違うが、いずれとも「体力」と「精神力」が必要である。志願者向けサイトの話題もほとんどが体力作りに関するものであることからも体力の必要性が伺える。

    また、手足を縛った状態で泳ぐ、目隠しをして水中で潜水具を着け外すなど高い水泳・潜水の技術も求められる。

    以下はSEALsの選抜・訓練過程である。士官・下士官問わず、全員が同じコースで選抜を受ける。

    海軍特殊戦予備校(Naval Special Warfare Preparatory School)(8週間)
    BUD/Sに向けての体力錬成を行う。最初と最後にPST(体力選抜テスト)を行い、合格できなければ原隊に戻される。

    基礎水中爆破訓練/SEAL(Basic Underwater Demolition/SEAL ……BUD/S)(24週間)
    体力・精神力・リーダーシップを養う訓練である。3週間の導入の後、7週間ずつ3フェーズに分けて行われる。それぞれのフェーズごとにスクリーニングがあるほか、自分の意志で棄権することもできる。

    ありとあらゆる意味で厳しい訓練であり、第1フェーズの「ヘル・ウィーク」で7割が脱落するという。

    第1フェーズ:
    最初の2週間は6.4kmのブーツラン、障害物走、水泳、ボートこぎなど基礎的な体力錬成が行われる。次の1週間は「ヘルウィーク」と呼ばれ、睡眠時間の合計が4時間、300kmを走り、1日20時間以上の体力トレーニングで、志願者のメンタルの強さを試す。残り4週間は水上偵察技術を学ぶ。

    第2フェーズ:コンバット・ダイビング
    オープンサーキット、クローズドサーキットの2種類のスキューバの取扱を含め、ダイビング技術が訓練される。

    第3フェーズ:地上戦闘技術
    射撃を含む基礎的な戦闘技術の訓練が行われるほか、読図などの座学も増える。体力的にも精神的にも厳しい環境の中で実弾や爆薬を扱うため、もっとも神経をすり減らす訓練であるという。

    空挺降下学校 (3週間)
    HALO降下を含む高度な降下技術を学ぶ。

    SEAL認定訓練(SQT) (26 weeks)
    CQB、ランドナビゲーション、爆破、格闘、寒冷地訓練などSEAL小隊で必要となる個人技術・知識が教育される。またアメリカ軍特殊部隊では必須のSERE(生存、脱出、抵抗、逃走)コースも受講する。

    アラスカで寒冷地訓練に参加するSEALs。

    SQTを突破するとワシが三叉矛とフリントロックピストルを持った「トライデント」徽章が授与され、晴れてSEALsとして認められる。その後、チームに配属されるが、空き状況により即時配属でないこともあるようだ。

    SEAL Troop (TRP) Training(18ヶ月)
    配属先チームの一員として、個人、ユニット、タスクグループと規模別の応用訓練が随時行われる。派遣期間に合わせて12~18ヶ月分が3回に分けられる。

    オサマ・ビンラディン殺害作戦「ネプチューン・スピア」はDEVGRUが実行したとされているが、これについて他の特殊部隊の隊員から「やっかみ」があったという。当時のSOCOM司令官は海軍出身であったことも、これを加速させたようだ。

    それでは、この作戦が他の部隊、例えば陸軍や空軍に実行できたかどうかというと疑問である。陸軍の行動するサイズが作戦の実行速度に見合うものであったか、空軍の用いる火力は外交に悪影響を与えないものかどうか……と考えると本当に微妙ではあるが、やはり特殊部隊の間には違いがあって、それぞれに得意な任務があるということが分かってくる。特殊部隊が4軍にまたがって存在しているのには大きな意味があるのだ。1年をかけてお送りしたこの特集が、その理解の端緒になれば幸いである。

    Text & Graphic: Chaka (@dna_chaka)
    Chaka (@dna_chaka)
    世界の様々な出来事を追いかけるニュースサイト「Daily News Agency」の編集長。


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