12日、千葉県にある陸上自衛隊の習志野演習場が一般開放され、「平成30年 第一空挺団降下訓練始め」がおこなわれた。
この恒例の年頭行事は、落下傘による降下及びヘリコプターを使用した空中機動作戦を展示し、1年間の降下安全を祈願するとともに、第一空挺団に対する理解と信頼を醸成するためのもの。昨年に引き続き、米軍から陸軍特殊部隊「グリーンベレー」を含めた80余名の隊員が参加している。日米間における相互信頼の醸成を背景に、昨年の初参加が15名であったのに対して5倍以上の増員となった。
強い寒気と平日開催にもかかわらず、当日は5,300名の観客がその勇姿を一目見ようと駆け付けている。
周囲の植生に溶け込ませるよう「モフモフ」仕様に偽装処理された車輌は、73式小型トラック(パジェロ)または軽装甲機動車(LAV: Light Armoured Vehicle)。
AH-1Sコブラ攻撃ヘリコプター(上)は、外側に対戦車ミサイル「TOW(Tube‐launched, Optically‐tracked, Wire‐guided)」、内側に地域制圧用の70mmロケットで武装。 一方の AH-64Dアパッチ攻撃ヘリコプター(下)は、外側に70mmロケット、内側にヘルファイアミサイルで武装していた。どちらの攻撃ヘリコプターもランチャーのみで、模擬弾も積んでいない。
丘の向こうから突然姿を表し、二機編隊で低空を飛ぶ様子は勇ましく心強い。
ポイントに進入してきたUH-1J多用途ヘリコプター。 エキゾースト上部にある突起物は、赤外線追尾型ミサイルの妨害装置「IRジャマー」。全機取り付け可能なものの、諸事情によって搭載機は珍しい。 また、機体から垂れ下がるようになっているロープは「高度判定用ロープ」。ホバリング状態で隊員が飛び降りるため、砂袋が地面に着いているかを確認し、高過ぎないか最終チェックをおこなうためのもの。そして少し見え難いが、M24対人狙撃銃に取り付けられている黒い装置は「バトラー装置」だ。
ホバリングし、地上すれすれまで降下した機体から隊員が飛び出すと、UH-1Jは素早くその場を離脱した。
CH-47Jからロープ降下する隊員と、地上で120mm迫撃砲を展開する隊員。 次々とロープ降下し展開していく隊員たちの姿は、映画「ブラックホークダウン」でUH60からロープ降下するレンジャー隊員たちの姿とも重なって見える。
89式小銃を携えた隊員がチヌークから続々と降り立つ。 チヌークはCH-47の「JA型」で、フレア発射機を備えており、エキゾースト形状が特徴的。後部ハッチを飛び出した隊員たちは素早く散開し、敵との交戦に備えた。
120mm迫撃砲の発射を模擬展示。素早く弾頭を装填し、次々に発射する姿は日頃の訓練の成果を窺わせる。今回はあくまでも模擬展示だったが、実際の戦場で迫撃砲が空気を切り裂いて飛んでくる音は恐ろしく、歩兵にとっては精神的な効果も大きい。
ファーストロープのラック取付構造がよくわかるアングル。ラックを取り付けるとハッチを閉じることができなくなる。チヌークのロータブレードが生み出す風圧は凄まじく、100m以上離れている観覧席にまで巻き上げた草が風圧とともに舞ってきた。
極寒の中でおこなわれた今年の降下始め。空挺服だけでは明らかに寒そうだが、体温調節はインナーでおこなう程度で、あとは「気合い」で乗り切る他ない。
エンジン後部のエキゾースト形状が特徴的なこのCH-47JAには、最新の「CH47F」と同じ新型エンジンを搭載している。なおJA型機は、国際任務対応に改修されており、チャフ・フレアディスペンサー、ミサイル警報装置の受信機が取り付けられている。
CH-47シリーズはこれまでに、①J、②JA、③JA国際任務対応機、④JA国際任務対応機(新エンジン載せ替え)、⑤J勢力維持改修(JAへのバージョンアップ)、⑥JA(新エンジン搭載のF型同等の新造機)と、全6種をラインナップしているようだ。こうして逐次改修をおこなってきた背景からも、チヌークに対する期待度の高さが窺える。
チヌークが爆音とともに低空で飛来する様子はかなりの迫力で、観客からも大きな歓声が上がった。
青と白のツートン調に色塗られ、「陸上自衛隊」と記されたVIP用特別ヘリの「EC225」スーパーピューマ(JG-1024)。この日は、小野寺防衛大臣が視察のために訪れていたことから飛来した。 ゆっくりと降下するスーパーピューマを、隊員たちが整列して迎えていた。
今年は沖縄及びアラスカから、米陸軍特殊部隊「グリーンベレー」を含めた80余名の隊員が参加しており、前日の予行を含めて、5名の女性隊員の降下が予定された。女性隊員は特殊部隊所属の作戦支援要員。女性の空挺隊員自体がまだまだ稀有な存在であることからも、その姿を拝めたことは貴重な機会になったと言える。
アフガニスタン、イラクなどで実戦経験が豊富な米軍兵士の姿は頼もしく、遠目でもわかるそのシルエットは「精鋭」と呼ぶにふさわしい存在感を放っていた。
C-130(機体番号:95-1081)から飛び降りる陸自の空挺隊員。次々と機体から飛び出していく姿は練度の高さを感じさせ、美しくもあった。
C-1(機体番号:78-1025)からも空挺降下がおこなわれた。
陸自のパラシュートの種類は大きく分けて3種類。円型の通常降下用が新旧2種と、四角い形状をした自由降下用のもの1種でパラグライダーのように滑空とコントロールが出来る。次々と地上に降り立つと、隊員たちは素早くパラシュートを回収し、次の行動に移っていった。
米軍特殊部隊員も降下。陸自のものとはパラーシュートの形状が異なることが分かる。陸自の空挺隊員たちの降下スタイルと違い、米軍は前の隊員たちとぶつかるのではないかと思うほど、降下の間隔が短い。チヌークの後部ハッチから次々と飛び出していき、空にはあっという間にたくさんのパラシュートが花開いた。
小野寺防衛大臣は整然と並んだ空挺隊員たちを前に訓示し、平成30年度の降下訓練始めはそのフィナーレを迎えている。
本稿でご紹介し切れなかった当日の写真は、下記ミリブロ公式FaceBookギャラリーにて一挙公開中。こちらも併せてご覧頂きたい。
Text & Photo: Yusuke Suzuki
https://archive.uskphoto.com/
2006年、21才の時好奇心でアフガニスタンを訪れ、そこで出会った写真家の影響で写真を始める。その後2度アフガニスタンに戻り、写真家を志すようになる。2011年、 ボストンのNew England School of Photography卒業後、一年間ボストンでフリーランスとしてロイター通信、地元紙などで働く。2012年以降は拠点をニューヨークに移し、ドキュメンタリーフォトグラファーとして活動。近年はシリアやイラクで取材を続け、紛争問題・難民問題を追い続けている。