護身術・近接格闘術使用のリスクと日常的な危機管理
護身術は自分の身を守るためのものであるが、暴力の行使には法的な制限がある。素手で相手に大きなダメージを与える技術は効果的ではあるかもしれないが、法的な制限を鑑みると「使えない」技術であるともいえる。今回の講座はまず、護身術の使用における法的リスク、つまり何ができて、何をしてはいけないかということを考えるところから始まった。
正当防衛と緊急避難
護身術の使用は暴行罪・傷害罪、場合によっては殺人罪の構成要件を満たすものであるから、問題はその違法性が阻却されるか否か、つまり「正当防衛」が成立するかどうかとなる。
正当防衛が成立するのは「その場その時」「相手の違法な行為で」「自分や他人の権利が侵害されている」場合に、やむを得ずに行動した場合である。
例えば「逃走できる場所的・時間的猶予があるにも関わらず、自分に危害を加えようとしている相手を待ち伏せて返り討ちにした」というシチュエーションでは、当然のことながら正当防衛は成立しない。
まず敵を作らないこと、襲われた際は逃げて実力を行使せずに済ますことが重要である。そして、それでもなお危険を避けることができなければ、護身術の使用を躊躇してはならない。自己又は他人の権利(生命等)を最優先する、という割り切りも必要になる。
肩甲骨・肩関節を使った格闘術の基礎
田村装備開発の徒手格闘クラスでは、肩甲骨・肩関節の動きを技術の基礎においている。肩関節を柔軟にすることで、腕から背中にかけての動きが大きく滑らかになり、より多くの筋肉を用いたり敵を崩す技術が使えるようになる。
拳立てによるウォームアップ。ゆっくりの上げ下げ、素早く上げ下げをミックスして行う。
「船漕ぎ」と呼ばれる肩関節・肩甲骨まわりの柔軟体操
股関節のウォームアップである「四股」
両足を肩幅に開き、重心位置を意識しながらの打撃練習。ボクシングなどではさらに足を前後に開くが、シンプルに横に開き、使う手と、それぞれの両足の重心を組み合わせて確認する。
田村装備開発での基礎である肩甲骨の動きを用いた技術。このように両手を掴まれた状態では肘関節から先の力を使うことができない。
このため、まず肩甲骨を動かして肘の位置を落とすことで腕の自由度が上がる。
そのまま回転させることでロックを外すことができる。
相手の肘関節の向きを意識し、そちらに押すことで相手を制御している。
この一連の動きはこのように、武器を持った手を掴まれた時などにも応用できる。
掴まれてしまった部分の自由度は低くなるため、その他の部分を動かして対応することが重要である。このように両手を掴まれたときも、肩関節を上下に振ることで相手を制御することができる。
片手のみの技術であるため、このように両手を掴まれても、2人同時に対処できる。
肘関節は肩関節との関係で、力を掛けるとそれ以上曲げることができない角度がある。
相手が動いてもその方向に対応して押すことで、このように倒すことができる。
これらの技術は合気道をベースにしている。手首の小さな操作でも、うまく体重を乗せるだけで相手を制御できる。
相手との技量差にもよるが、ほとんど力を入れずに相手を倒すこともできる。
また人体には多くの急所がある。多くの格闘技では反則であるが、実戦ではあらゆるチャンスを生かして攻撃しなければならない。
取っ組み合いになった時などは攻める方も手が限られてくるため攻撃できるところを攻撃することになる。耳もうまくつかむことで、相手の上体を振り回すことができる。
基礎事項の一つである正中線取り。正中線は動きの中心であり、弱点が集中しているところでもある。
相手の腕の外側から正中線を取り、首を捉えた例。
前回の講座でも触れられたが、戦闘の基本は相手の注意を自分の攻撃からそらすこととなる。徒手の場合は手と足など高さが違う部位を互いの目隠しとして使うことができる。
視界に入りにくい蹴り。まず歩く動きのように膝を上げる。
そのまま踏みつけるように膝を蹴る。相手の動きを止めたら外側に回る。
正中線をとる動きに移行。この方法では相手からは蹴りのモーションが見えにくく、防ぐのが難しくすることができる。
徒手は最後の手段であって、戦いにおいては身の回りの道具を使うことも重要である。ただしその特性はよく理解しておかなければならない。フラッシュライトはその端的な例と言える。
例えば手で光を塞がれた場合はどうすればよいか。点灯のタイミング、相手を照らす方向などはライトのスペックや眼球の特性によって様々に変化する。
護身術においては相手にスキを作らせて、その場から離れるのが最善である。軍・LEでの近接戦闘では相手を無力化する必要が出てくることがある。
相手が武器に触れず、とっさに攻撃ができないよう安全を保つこと。また1人では片手でできる方法であることも重要だ。
田村装備開発の講座は、ミリタリー・LEの要員が受けることを想定している。今回の内容は基礎的なものというが、普段から体を動かしている人にとっても十分な手応えを得られる内容であった。
技術の数には限りがないので、まず基本的なコンセプトを理解し、それを様々に応用する機会も必要となる。近年は様々な教材が開発されているが、実際の人間を相手に練習するほうが、上達の効率は高いだろう。田村装備開発の講座は、次のステップを目指す人にとって、ちょうどよいきっかけになるのではないだろうか。
Photo & Text: Chaka (@dna_chaka)
Chaka (@dna_chaka)
世界の様々な出来事を追いかけるニュースサイト「Daily News Agency」の編集長。