実在テロリスト「カルロス」の半生を描いた映画が9月1日公開

実在のテロリスト、イリッチ・ラミレス・サンチェス (通称 : カルロス) の半生を、史実や報道を元に忠実に描いた、5時間30分 に渡る超大作映画「カルロス」が 2012年9月1日 に劇場公開となる。
©Film en Stock / CANAL+ / Photographe : Jean-Claude Moireau


9・11のアメリカ同時多発テロ事件以後、世界は変わってしまった。暴力によってものを言わせたいと願う者たちにとって、かつての“鉛の時代”(※)が魅力的なときに映りだしたのだろうか。けれどもテロリズムに未来はなく、得られる結果は乏しいものにしかならないはずだ。果たしてこのような時代に、映画は何を描き、伝え、語るべきか?ひとつの答えがここに存在する。
※注:70 年代、ヨーロッパ・日本・中東で極左グループが武装闘争とテロリズムへ傾倒していった時代を示す表現。
マルガレーテ・フォン・トロッタ監督の『鉛の時代』(81)に由来する。
Left : ©Film en Stock / CANAL+ / Photographe : Carole Bethuel
Right : ©Film en Stock / CANAL+ / Photographe : Jean-Claude Moireau
Right : ©Film en Stock / CANAL+ / Photographe : Jean-Claude Moireau
●上映時間5 時間30 分。あなたはテロリストの日常を目撃する映画『カルロス』は、ここ数年世界中で最も注目されてきた伝説のテロリスト、イリッチ・ラミレス・サンチェス(通称カルロス)のドラマチックな半生を史実や報道をもとに描いた作品だ。


フレデリック・フォーサイスのベストセラー小説にちなんだ“ジャッカル”の別名でも知られるこの男は、1974 年ロンドンにおけるイギリス経済界の大物殺害未遂から1994年ハルツームで逮捕されるまでの20 年間、テロ14 件、殺害者83人、負傷者100人以上の事件に関与し、1972 年5月の岡本公三らによるテルアビブ空港乱射事件では犯行に使用した武器を調達した人物とも言われている。
複数の偽名と人生を使いわけ国際政治の複雑な網をかいくぐってサバイバルし続けたカルロスの軌跡を、映画は5 時間30 分、3 部作として構成した。
ロンドンの連続テロと日本赤軍によるハーグのフランス大使館人質監禁事件が描かれた第1部。カルロスのテロリスト人生において最大のクライマックスともいえる、ウィーンで開催されたOPEC(石油輸出国機構)会議上での人質事件がパワフルに描写され、息つく暇もないサスペンスが全編にみなぎる第2 部。世界秩序の変化、冷戦の終結で革命の夢途絶え、金次第で誰の命令にでも従うプロのテロリスト、いわば「殺し屋」に変貌したカルロスが転落していく過程を、叙事詩的に描いた第3 部。
長尺でありながらノンストップで疾走する本作は、内部からみた現代テロリズムの物語でもある。
©Film en Stock / CANAL+ / Photographe : Jean-Claude Moireau
●これがフランス映画!? スケールの大きさに圧倒!フランス映画界が総力を結集して製作した本作の監督は、若き巨匠オリヴィエ・アサイヤス。『カルロス』は、『クリーン』『夏時間の庭』等、映画祭で高い評価を受け着実なキャリアを積み重ねてきた彼が、映画作家としての技術、知力、体力を極限まで駆使して完成させた、フランス映画史に残るであろう最高傑作である。
当初フランスのTV 局カナル・プリュスからTV用作品として持ち込まれたこの企画は、アサイヤスの熱意で2 年近くに渡る脚本執筆期間を経て壮大な物語へと変貌をとげていく。
上映時間の延長、原語による台詞の徹底、スコープサイズの採用、国際的配役の実現等、製作態勢はスクリーンでの上映が前提となり、劇中描かれる事件は実際の報道に基づき限りなく忠実に再現されることとなった。
7か国以上の言語を用いる俳優120人以上を率い、オランダ、イギリス、フランス、ドイツ、オーストリア、ハンガリー、シリア、イエメン、スーダン等10 数か国で約3か月間のロケ撮影の後に完成した本作は、ポリティカル・アクションの歴史にその名を刻むエポック・メイキングな超大作と呼んでも過言ではない。
●ハリウッドのラテン系ニューカマー、エドガー・ラミレス本作の主演カルロス役は、トニー・スコット監督の『ドミノ』やスティーヴン・ソダーバーグ監督の『チェ 28 歳の革命』で脚光を浴びたハリウッド期待の新星エドガー・ラミレス。
くしくもカルロスと同じ“ラミレス”という名字をもつ彼は、伝説のテロリスト同様ベネズエラのサンクリストバル出身で5か国語を話す36 歳。監督のアサイヤスが「ラミレスを発見したことで映画化実現への確信を得た」と発言するほど、カルロスを演じる俳優として世界でこれ以上の人材はいなかった。
身長185センチ前後、射撃の名手でやや小太り、圧倒的なカリスマ性をもつカルロスは、エドガー・ラミレスの肉体改造をもいとわない名演によって永遠にスクリーンに刻み込まれる。
●アート系作品のイメージを大胆にくつがえすサウンド、アクション、美女の群れ!!

ジャー作品をはるかに凌駕する迫力。
音楽は、ニュー・オーダー、ア・サーティン・レイシオら80年代ニューウェイヴからアタウアルパ・ユパンキ、ハムザ・エル=ディンの民族音楽まで、あえて時代相を無視したバラエティに富んだ選曲。さらに、カルロスがヨーロッパや中東、アフリカを股にかけ、様々な女たちと情交を重ねるさまを、イアン・フレミングの「007」シリーズを思わせる硬質なエロティシズムで表現。
映画は、孤独で淋しいテロリストの二面性をドライなタッチで映像化することに成功している。アメリカの権威ある映画雑誌「フィルム・コメント」選出の2010年年間ベスト50で『ソーシャル・ネットワーク』を押え第1位に輝き、2010年カンヌ国際映画祭で特別上映作品の栄誉を受けた『カルロス』。70年代から90年代にかけて一大転換をとげた国際政治の裏側を、ひとりの伝説的テロリストの半生から見事に描きだした本年屈指の話題作である。
©Film en Stock / CANAL+ / Photographe : Jean-Claude Moireau
監督:オリヴィエ・アサイヤス
製作:ダニエル・ルコント
脚本:オリヴィエ・アサイヤス、ダン・フランク
出演
カルロス/イリッチ・ラミレス・サンチェス(エドガー・ラミレス)、スティーヴ/ヨハネス・ヴァインリヒ(アレクサンダー・シェアー)、マグダレーナ・コップ(ノラ・フォン・ヴァルトシュテッテン)、ワディ・ハダド(アフマド・カーブル) 、アンジー/ハンス=ヨアヒム・クライン(クリストフ・バッハ)
© CAROLE BETHUEL / JEAN CLAUDE MOIREAU / PATRICK SWIRC / FILM EN STOCK / CANAL+
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