「対テロ戦争」の知られざる実態を暴く問題作、10/1 公開映画「ドローン・オブ・ウォー」

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この映画を一言で表すなら“静寂”であろう。間もなく日本でも公開されるドローン(攻撃型無人機)とPTSD(心的外傷後ストレス障害)という二大テーマで描かれた映画『ドローン・オブ・ウォー』の試写を見終えた直後の所感である。戦争映画でありながら銃声や爆裂音といった効果音、シーンを盛り上げる大袈裟なBGMが無い…これこそ“ドローンを用いた近代戦”を表すに相応しい演出ではなかろうか。そして、パイロットたちの心的ストレスや心情変化を映し出すには打って付けだと感じた。

◆INTRODUCTION
昨今、あらゆるメディアを賑わせている“ドローン”とは、無線操作によって飛行する無人機のこと。災害発生地での現状調査、荷物の配送、個人の趣味から商業レベルでの動画撮影といった多様な用途が想定されるドローンは、近い将来に莫大な経済効果をもたらすと見込まれている。その一方、ホワイトハウスの敷地や日本の首相官邸屋上での落下事件は大々的なニュースとなり、緊急の法整備の必要性が叫ばれる事態を呼び起こした。そんな新たなテクノロジーの光と影が注目され、世界中の大企業やベンチャーがこぞってドローンの開発、活用に取り組む動きが日々報じられている2015年は“ドローン元年”とも呼ばれている。

しかし実はドローンをめぐる技術革新は、長年にわたって軍事分野で着々と進められてきた。あの9.11同時多発テロ以降、アメリカ政府はテロリストの一掃をもくろみ、イラクやアフガニスタンに無人戦闘機を投入。アメリカ国内から遠隔操作するため、操縦士に危険が及ばないドローンは画期的な兵器であり、戦争のあり方を根底から変えたとも言われるが、同時にさまざまな深刻な問題も噴出している。「ガタカ」「TIME/タイム」のアンドリュー・ニコル監督が放つ最新作『ドローン・オブ・ウォー』は、敵に何の気配も察知されることなく一瞬にして爆撃を遂行する“空の殺人兵器”を全面的にフィーチャー。ひとりのドローン操縦士の日常に焦点を絞り、現代における戦争の知られざる真実を暴き出した問題作である。

アメリカ空軍のトミー・イーガン少佐は、F-16戦闘機のパイロットから無人戦闘機の操縦士に転身し、政府のテロリスト掃討作戦に貢献してきた優秀な軍人である。しかしトミーはやるせない違和感に囚われていた。ラスベガス郊外のマイホームと砂漠の空軍基地を車で毎日往復し、エアコンが快適に効いたコンテナ内のオペレーションルームにこもって、圧倒的な破壊力を誇るミサイルをクリックひとつで発射する。音声の出ないモニターだけで戦場の状況を確認するその任務は、まるでゲームのように現実感が欠落しているのだ。CIAの対テロ特殊作戦に参加したトミーは、度重なる過酷なミッションにじわじわと精神を蝕まれ、愛妻モリーとの関係までも冷えきっていく。やがてストレスが限界を超えたトミーは、冷徹な指揮官からの人命を軽んじた爆撃指令への反抗を決意するのだった・・・。

「対テロ戦争」の知られざる実態を暴く問題作、10/1 公開映画「ドローン・オブ・ウォー」
◆STORY
アメリカ空軍のトミー・イーガン少佐(イーサン・ホーク, Ethan Hawke)は、紛争地域におけるテロリストへの監視や爆撃、味方の地上部隊の支援に携わる軍事パイロットである。今日もまた破壊力抜群の空対地ミサイル“ヘルファイア”を撃ち、6人のタリバン兵をあの世送りにした。しかしトミーの赴任地はアジアでも中東でもない。ラスベガスの空軍基地に設置されたコンテナ内でドローン(無人戦闘機)を遠隔操作し、1万キロ余りも離れた異国でのミッションを遂行しているのだ。エアコンが効いたオペレーションルームで一日の任務を終えると、車でラスベガスのきらびやかな歓楽街を通り抜けて、整然と区画された住宅街のマイホームへ帰り、元ダンサーの美しい妻モリー(ジャニュアリー・ジョーンズ)とふたりの幼い子供との生活に舞い戻る。それが毎日繰り返されるトミーの日常だった。

かつて有人戦闘機のFー16に乗り、200回以上の出撃を経験したトミーは、身体的な危険も爆撃の実感も伴わず、モニターに映った標的をクリックひとつで殺害する現在の職務に違和感を覚えていた。上官のジョンズ中佐(ブルース・グリーンウッド)は良識ある軍人だが、トミーのドローン操縦の腕前を高く評価するがゆえに、彼の異動願いを受け入れてくれない。連日の激務に神経をすり減らしたトミーは、いつしかアルコールに依存するようになり、以前は情熱的に愛し合ったモリーとの夫婦仲にも冷たい空気が流れていた。

ある日、新人の女性空兵スアレス(ゾーイ・クラヴィッツ)がチームに配属される。さっそくトミーの相棒としてミサイル誘導レーザーの照射を担当することになったスアレスは、現実感の無い任務の恐ろしさと虚しさを痛感することになる。あるターゲットへ向けたミサイルの発射から着弾までの7秒のタイムラグの間に、爆撃地点にさまよい込んできた子供たちが巻き添えになってしまったのだ。発射スイッチを押したトミーはやるせない罪悪感に打ちのめされる・・・。

◆スタッフ
○監督・製作・脚本:アンドリュー・ニコル( Andrew Niccol )
1964年ニュージーランド・パラパラウム生まれ。21歳の時に母国からロンドンに移り住み、長らくCMのディレクターとして活躍する。その後、映画監督に転身するためロサンゼルスに拠点を移し、イーサン・ホーク、ユマ・サーマン、ジュード・ロウ出演の「ガタカ」でデビュー。遺伝子の優劣によって人間が選別される近未来社会を創造した同作品は、卓越したヴィジュアルとエモーショナルなドラマが融合した傑作として絶賛を博した。続いてピーター・ウィアー監督、ジム・キャリー主演のブラック・コメディ「トゥルーマン・ショー」に脚本を提供し、究極の美貌を誇るCG女優をめぐるSF映画「シモーヌ」を発表。スティーヴン・スピルバーグ監督、トム・ハンクス主演のヒューマン・ドラマ「ターミナル」には製作総指揮と原案で携わった。ニコラス・ケイジを主演に迎えた監督第3作「ロード・オブ・ウォー」は、史上最強の武器商人と呼ばれた男の半生をたどった社会派映画。6年のブランクを経て発表した「TIME/タイム」は、貧しき者と富める者の余命の格差を斬新な発想で映像化したSFサスペンスで、日本でもスマッシュ・ヒットを記録した。「トワイライト」シリーズのステファニー・メイヤーのSF冒険小説に基づく監督第5作「ザ・ホスト 美しき侵略者」も記憶に新しい。

○製作:ニコラス・シャルティエ( Nicolas Chartier )
2005年にヴォルテージ・ピクチャーズを設立し、その第一回製作作品『ハート・ロッカー』(08)でアカデミー賞6部門を受賞するという画期的な成功を収めた。その後、製作を務めた主な作品は「キラー・スナイパー」「ネイビーシールズ:チーム6」「ランナウェイ/逃亡者」「ゼロの未来」。また、スティーヴン・セガール主演のTVムービーや「シークレット・パーティー」「ドン・ジョン」「ダラス・バイヤーズクラブ」「バレット・オブ・ラヴ」「靴職人と魔法のミシン」などに製作総指揮で携わっている。

○撮影:アミール・モクリ( Amir Mokri )
1977年に母国イランからアメリカに移り住む。キャリア初期には「パシフィック・ハイツ」「ブルースチール」などのハリウッド映画の撮影監督を務める。アンドリュー・ニコル監督の「ロード・オブ・ウォー」でも撮影を担当。それ以降は「ワイルド・スピードMAX」「トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン」「マン・オブ・スティール」「トランスフォーマー/ロストエイジ」といった大作に携わっている。

○編集:ザック・ステンバーグ ( Zach Staenberg )
「ロード・オブ・ウォー」「TIME/タイム」に続き本作がアンドリュー・ニコル監督との3本目のコンビ作。それ以前はウォシャウスキー・ブラザーズとのコラボレーションで知られ「マトリックス」3部作のほか、「バウンド」「スピード・レーサー」の編集を手がけた。そのほかの主な作品は「ボディ・ターゲット」「サベイランス -監視-」「モンゴル」「エンバー 失われた光の物語」「エンダーのゲーム』(13)など。

○音楽:クリストフ・ベック( Christophe Beck )
1990年代半ばから母国カナダのいくつかのTVシリーズに音楽を提供し、作曲家としてのキャリアをスタート。「ハングオーバー!」シリーズ3作品のようなコメディや、大ヒット・アニメ『アナと雪の女王』(13)のほか、アクション、SF、ドキュメンタリーなど多彩なジャンルで活躍し、今最も忙しい映画音楽家のひとりである。そのほか近年の主な作品は「ゴースト・エージェント/R.I.P.D.」「オール・ユー・ニード・イズ・キル』(14)など。

○美術:ガイ・バーンズ( Guy Barnes )
1980年代後半からプロダクション・デザイナー、アート・ディレクターとして数多くの映画、TVムービー、TVシリーズに携わっている。主な作品は「トラブル IN ベガス」「セラフィム・フォールズ」「バトル・ライン」「ネイビーシールズ:チーム6」など。

○衣装:リサ・ジェンセン( Lisa Jensen )
1980年代半ばから映画業界の衣装部門で働き、25本以上の長編映画に携わっている。主な作品はサターン賞にノミネートされた「フリージャック」のほか、「ダブル・ミッション」「パッション・プレイ」「スティーブ・ジョブズ」「オッド・トーマス 死神と奇妙な救世主」など。

◆キャスト
○イーサン・ホーク( Ethan Hawke )トミー・イーガン役
1970年テキサス州オースティン生まれ。14歳の時に出演した「エクスプローラーズ」で映画デビュー。「ホワイトファング」「リアリティ・バイツ」などでハリウッドを代表する若手スターのひとりとなった。その後も多彩なジャンルの映画に出演して演技の幅を広げる一方「チェルシーホテル」で監督デビュー。自作の小説を映画化した監督第2作「痛いほどきみが好きなのに」も発表している。
リチャード・リンクレイター監督と12年かけて撮影を行った近作「6才のボクが、大人になるまで。」ではアカデミー助演男優賞候補になった。これに先立ってアントワーン・フークア監督、デンゼル・ワシントン共演の『トレーニング デイ』(01)でも同・助演男優賞にノミネートされている。またアンドリュー・ニコル監督とはSF映画の傑作として名高い「ガタカ」で初めて組み、本作は「ロード・オブ・ウォー」以来、3本目のコンビ作となる。
その他の主な出演作は「生きてこそ」「大いなる遺産」「ヒマラヤ杉に降る雪」「ハムレット」「アサルト13 要塞警察」「クロッシング・デイ」「デイブレイカー」「ゲッタウェイ スーパースネーク」「アナーキー」「プリデスティネーション」などがある。

○ブルース・グリーンウッド( Bruce Greenwood )トミーの上官 ジョンズ役
1956年カナダ・ケベック州ノランダ生まれ。ハリウッド大作から独立系の作品まで幅広いキャリアを築き上げており、とりわけジョン・F・ケネディ大統領を演じた「13デイズ」や、パイク提督を演じた「スター・トレック」「スター・トレック イントゥ・ザ・ダークネス」、グザヴィエ・ドランと共演した近作「エレファント・ソング」で鮮烈なインパクトを残した。

○ゾーイ・クラヴィッツ( Zoe Kravitz )スアレス役
1988年カリフォルニア州ロサンゼルス生まれ。父はミュージシャンのレニー・クラヴィッツ、母は女優のリサ・ボネット。「幸せのレシピ」「ブレイブ ワン」に出演し女優としてのキャリアをスタートさせた。その後は「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」「ダイバージェント」といった大作に出演。さらに、「マッドマックス 怒りのデス・ロード」では、砂漠で逃避行を繰り広げる美女たちのひとり、トースト役に扮し体当たりのアクション演技にも挑戦した。モデル、ミュージシャンとしても活動しており「ダイバージェント」の続編「Insurgent」など数多くの新作が控えている。

○ジェイク・アベル( Jake Abel )ジマー役
1987年オハイオ州カントン生まれ。ディズニー・チャンネルのTVムービー「GO! フィギュア」でデビュー。その後「コールドケース4」「CSI:マイアミ4」「ER XV 緊急救命室」といったTVシリーズなどに出演する。冒険ファンタジー大作「パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々」のルーク・キャステラン役では、主演のローガン・ラーマンとともにMTVムービー・アワードの格闘シーン賞にノミネートされた。アンドリュー・ニコル監督の前作『ザ・ホスト 美しき侵略者』(13)でもフレッシュな魅力を放っている。

○ジャニュアリー・ジョーンズ( January Jones )トミーの妻 モリー役
1978年サウスダコタ州スーフォールズ生まれ。1990年代末に女優のキャリアを踏み出し「バンディッツ」「マシュー・マコノヒー マーシャルの奇跡」などに出演。TVシリーズ「MAD MEN マッドメン」のベティ・ドレイパー役で注目され、2009年と2010年にゴールデン・グローブ女優賞(TVシリーズ/ドラマ部門)にノミネートされた。その後も華やかな容姿と確かな演技力を生かし「X-MEN:ファースト・ジェネレーション」「アンノウン」「スウィート・エンジェル」などに出演している。
本作は事実に基き、ドローンの運用状況を限りなく忠実に再現し“標的殺人”が最も激化した2010年を舞台にした物語である。ドローンからの映像を髣髴させる俯瞰で捉えたカメラワークが随所で登場する。それは、戦場と平和な街との差異を狙ったものであることは直ぐに想像できるが、戦場から1万2000キロ離れた地球の裏側で操作するパイロット達の“現実離れした距離感”を表しているともいえる。そして、ネオンライトが煌びやかなラスベガスの街並みも同様である。

本編中に「ゲームセンターでリクルートされた」と「吹き飛ぶピクセルは人の体、人の血だ」と云う台詞が印象的だ。ドローンによる攻撃はビデオゲームに比喩されることがよくあるが、ゲームの様な効果音やBGMの無い独特の世界であることが、この映画を観るとよく分かる。劇中のコントロールルームでのシーンは映画BGMがほぼ流れことは無く、淡々と状況が映し出されていく。“ビデオゲームでは無い”ドローンの現場を忠実に描こうとする監督の意図が感じられるシーンだ。モニタ越しの現実味の無い世界でありながら、パイロット達が目にするのは自ら手を下した高画質に映し出される惨状。攻撃成果評価(死体のボディーカウント)を終えて、任務の引継ぎをしコントロールルームを後にする。基地の外に出れば家族が待つ平和な日常がある。この極端なコントラストが心を蝕んでいくのは当然であろう。民間人を巻き込む攻撃は戦争犯罪でなのでは?ドローンでの攻撃が正しいのか?憎しみの連鎖を生むのでは?大義名分はあるものの、倫理観を揺るがす行為に違和感とストレスが増していく描写が地味に痛々しい。

本作は派手さの無い演出に終始しており、新しい戦争映画のスタイルと言えよう。音も無く捩ぢ寄るドローンの攻撃は、敵側だけでなく自身の心も蝕んでいく。淡々と任務をこなす物静かな主人を演じるイーサン・ホークの芝居がとてもリアルに思えた。
『ドローン・オブ・ウォー』の原題は[ GOOD KILL ]であるが、これは攻撃シーケンスが終了したときにパイロットが発する言葉。この言葉が皮肉めいて聞こえるのは私だけだろうか?

映画『ドローン・オブ・ウォー』
「9.11」以後始まった【対テロ戦争】の知られざる実態を暴く問題作
http://www.drone-of-war.com/
2015年10月1日より全国ロードショー
配給:ブロードメディア・スタジオ
©2014 CLEAR SKIES NEVADA,LLC ALL RIGHTS RESERVED.

Text: 弓削島一樹

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