TVのBlackhawkの「SERPAホルスター」特集で不適切な安全管理が映り込み炎上
「安全ではない」とされるBlackhawk社の「SERPA」シリーズホルスターについて、銃・射撃に関するTV番組「Guns & Ammo TV」が同ホルスターを擁護する特集を放映したところ、ドロウの際に人差し指がトリガーに触れるところが写り込んでしまったことが話題となっている。
問題となったのは、以下の動画の2:23あたりからのシーン。ガンスミスでもある司会のパトリック・スウィーニーのドロウをスローモーションで見せている。
Blackhawk! SERPA video clip from Guns&Ammo TV - YouTube
スローモーション部分を抜粋した動画。
銃口がターゲットの方向を向くまではトリガーに指をかけないのが原則であるが、上記の動画ではドロウの際に人差し指がトリガーにかかっているのがはっきりと写ってしまっている。SERPAホルスターはドロウ中の暴発事故が発生し、アメリカの連邦法執行機関トレーニングセンター(FLETC)や多くの民間スクールでその使用が禁じられているが、あらためてその欠陥が浮き彫りになったことでネットでは「炎上」したようだ。
同ホルスターは日本でも最も入手性の高いホルスターの1つであり、本物の兵士の装備に近づけるいわゆる「ミリコス」のユーザーはもちろん、サバイバルゲームで使用する人も多数いる。それほど出回っているアイテムであるが、実際のところSERPAホルスターはどれほど「危険」なものなのだろうか。
問題となったのは、以下の動画の2:23あたりからのシーン。ガンスミスでもある司会のパトリック・スウィーニーのドロウをスローモーションで見せている。
Blackhawk! SERPA video clip from Guns&Ammo TV - YouTube
スローモーション部分を抜粋した動画。
SERPA DERP - YouTube
銃口がターゲットの方向を向くまではトリガーに指をかけないのが原則であるが、上記の動画ではドロウの際に人差し指がトリガーにかかっているのがはっきりと写ってしまっている。SERPAホルスターはドロウ中の暴発事故が発生し、アメリカの連邦法執行機関トレーニングセンター(FLETC)や多くの民間スクールでその使用が禁じられているが、あらためてその欠陥が浮き彫りになったことでネットでは「炎上」したようだ。
同ホルスターは日本でも最も入手性の高いホルスターの1つであり、本物の兵士の装備に近づけるいわゆる「ミリコス」のユーザーはもちろん、サバイバルゲームで使用する人も多数いる。それほど出回っているアイテムであるが、実際のところSERPAホルスターはどれほど「危険」なものなのだろうか。
これは、アフガニスタン派遣の海兵隊が射撃訓練をしている動画である。SERPAホルスターからドロウするドリルが収められている。一般的な兵士向けとしては応用的な内容であるが、軍での典型的なSERPAホルスターの使い方といえる。
次にこちらは、SERPAホルスター使用中の事故の代表例としてしばしば取り上げられる動画である。至近距離のターゲットを左の腕で抑え、その間にドロウし腹部・骨盤を撃つというドリルの最中、勢い余って足を撃ってしまうというものだ。尋問している相手に襲われた際の護身的射撃テクニックとして警察等法執行機関(LE)や民間の射撃スクールでよくある内容である。
2者を比べれば、求められる速度やストレスレベルは使い方によって全く違うことが分かる。軍では比較的ドロウが遅く、抜くシチュエーションもストレスの低い場所であることが多い。あくまでもライフルがプライマリであり、ハンドガンはバックアップである。
対して一般の警察官、私服の捜査官はハンドガンがプライマリとなる。銃器の使用には制限が課せられており、使用直前までドロウすることができないことがほとんどだ。なので、しばしば素早いドロウを(多くの場合衣服の下の)ホルスターから行う必要がある。
具体的にはLEである連邦航空保安官の射撃能力認定試験(TPC)の第1課題ではドロウから1.65秒以内に射撃する速度が求められるが、先般改定された海兵隊の戦闘ピストルテスト(CPP)では、最速でドロウから5秒以内にダブルタップで2発なのでドロウ速度は倍近い。先の訓練動画でも、弾数は多いがドロウ速度はさほど速くないことに注目されたい。
7m先から走って襲いかかってくる相手を想定した「テューラー・ドリル(Tueller Drill)」ドロウ速度の違いは明らかである。
(その他、LEが直面する具体的なシチュエーションについては、以前レポートにて掲載した警察用射撃シミュレーターの記事を参照されたい)
関連記事:
⇒アメリカにおける警察用射撃訓練シミュレーターの実際
FLETCが2012年にSERPAホルスターの使用を禁止したのは、このような高速なドロウにおける危険性のためだ。実際に何度か事故が起こっており、それに関する報告書には次のようにある。
リテンションの多いホルスターではアンロックのもたつきが問題になる。これはSERPAホルスターに限った問題ではないが、SERPAのようにトリガーフィンガーをロックの解除に使用するようなホルスターでは高速なドロウ時に被害がエスカレートしやすい、というのが禁止の理由である。
法執行機関や民間のスクールがSERPAホルスターの持ち込みを禁止するのは、高速なドロウを用いるテクニックを技術レベルの不明瞭な生徒に教えるシチュエーションがSERPAホルスターが暴発を起こす条件を揃えてしまうからである。暴発が起これば授業は止まり教育の内容や質も厳しく問われることになるだろう。教育機関としては絶対に避けたいリスクである。
元デルタの銃器インストラクター、ラリー・ヴィッカーズ氏が「個人的に使うことについては意見しないが、私のクラスでは禁止する」として、SERPAホルスターを仕事で使わなければならない警官や軍人以外の持ち込みを禁じているのも、クラス運営の維持のためという側面が強い。暴発によってクラスが中止になれば授業料の払い戻しや状況によっては高額の賠償金が発生し、レンジ使用の禁止、インストラクター資格の剥奪などにもなりかねない。
SERPAホルスターは比較的ドロウ速度の低い使い方では何の問題もない。米軍のM12ホルスターのような軍用のフラップ付きホルスターと比べれば同等の力で保持できて数倍速いドロウが可能である。サバイバルゲームでハンドガンをセカンダリとして運び、カバーの内側でこっそりと抜く……といった負荷ならトリガーフィンガーを十分にコントロールできるだろう。
ただし、高速なドロウではその安全性が担保されない。低速から何度も繰り返し練習を行えば安全に速く抜くことはできるが、それが目的なら他にもよい選択肢はたくさんある。Blackhawk社自体、SERPA以外にも様々なホルスターをラインアップしている。
もちろんこれはSERPAホルスターの限界が低いことを意味しているわけではない。例えばこちらの動画では競技シューターのトッド・ジャレットが、SERPAホルスターから1秒以内に抜いてドライファイアするデモを行っている。
しかし大ベテランの彼ですらもデモ中にアンロックをミスする。スクールに行くようなレベルの人については言うまでもないだろう。ひとくくりに「危険だ」とするのは間違いだが、「安全だ」というわけでもない。様々なレベルの人間が使用するものである以上、慎重な判断が必要である。
Text: Chaka (@dna_chaka) - FM201603
Marine Combat Shooting Course in Afghanistan - YouTube
次にこちらは、SERPAホルスター使用中の事故の代表例としてしばしば取り上げられる動画である。至近距離のターゲットを左の腕で抑え、その間にドロウし腹部・骨盤を撃つというドリルの最中、勢い余って足を撃ってしまうというものだ。尋問している相手に襲われた際の護身的射撃テクニックとして警察等法執行機関(LE)や民間の射撃スクールでよくある内容である。
Original Upload, I Just Shot Myself! - YouTube
2者を比べれば、求められる速度やストレスレベルは使い方によって全く違うことが分かる。軍では比較的ドロウが遅く、抜くシチュエーションもストレスの低い場所であることが多い。あくまでもライフルがプライマリであり、ハンドガンはバックアップである。
対して一般の警察官、私服の捜査官はハンドガンがプライマリとなる。銃器の使用には制限が課せられており、使用直前までドロウすることができないことがほとんどだ。なので、しばしば素早いドロウを(多くの場合衣服の下の)ホルスターから行う必要がある。
具体的にはLEである連邦航空保安官の射撃能力認定試験(TPC)の第1課題ではドロウから1.65秒以内に射撃する速度が求められるが、先般改定された海兵隊の戦闘ピストルテスト(CPP)では、最速でドロウから5秒以内にダブルタップで2発なのでドロウ速度は倍近い。先の訓練動画でも、弾数は多いがドロウ速度はさほど速くないことに注目されたい。
7m先から走って襲いかかってくる相手を想定した「テューラー・ドリル(Tueller Drill)」ドロウ速度の違いは明らかである。
Tueller Drill - YouTube
(その他、LEが直面する具体的なシチュエーションについては、以前レポートにて掲載した警察用射撃シミュレーターの記事を参照されたい)
関連記事:
⇒アメリカにおける警察用射撃訓練シミュレーターの実際
FLETCが2012年にSERPAホルスターの使用を禁止したのは、このような高速なドロウにおける危険性のためだ。実際に何度か事故が起こっており、それに関する報告書には次のようにある。
<引用・訳ここから>
ドロウ手順を誤ると銃に拘束(Duress)を感じる。ここからの一連のエラーにより、雪だるま式に失敗が拡大する。このエラーはまず、ホルスターのアンロック不良として射手に認識される。
エラーの内容は以下のとおり:
・ロック解除が完了する前に引き上げが始まり、抵抗が増加する。
・ロックが銃の位置を固定してしまう
・さらにテンションが増加する
・射手はさらに力を入れ銃を抜こうとする。このとき指の腹ではなく指の先でロックを押そうとするため、トリガーフィンガーを曲げる。グリップを握りしめる動きは指にも伝わり、曲がりはいよいよ大きくなる
・銃がホルスターが離れ、曲がった指はトリガーの近くまで移動する。
出典:FLETC
<引用・訳ここまで>
リテンションの多いホルスターではアンロックのもたつきが問題になる。これはSERPAホルスターに限った問題ではないが、SERPAのようにトリガーフィンガーをロックの解除に使用するようなホルスターでは高速なドロウ時に被害がエスカレートしやすい、というのが禁止の理由である。
法執行機関や民間のスクールがSERPAホルスターの持ち込みを禁止するのは、高速なドロウを用いるテクニックを技術レベルの不明瞭な生徒に教えるシチュエーションがSERPAホルスターが暴発を起こす条件を揃えてしまうからである。暴発が起これば授業は止まり教育の内容や質も厳しく問われることになるだろう。教育機関としては絶対に避けたいリスクである。
元デルタの銃器インストラクター、ラリー・ヴィッカーズ氏が「個人的に使うことについては意見しないが、私のクラスでは禁止する」として、SERPAホルスターを仕事で使わなければならない警官や軍人以外の持ち込みを禁じているのも、クラス運営の維持のためという側面が強い。暴発によってクラスが中止になれば授業料の払い戻しや状況によっては高額の賠償金が発生し、レンジ使用の禁止、インストラクター資格の剥奪などにもなりかねない。
SERPAホルスターは比較的ドロウ速度の低い使い方では何の問題もない。米軍のM12ホルスターのような軍用のフラップ付きホルスターと比べれば同等の力で保持できて数倍速いドロウが可能である。サバイバルゲームでハンドガンをセカンダリとして運び、カバーの内側でこっそりと抜く……といった負荷ならトリガーフィンガーを十分にコントロールできるだろう。
ただし、高速なドロウではその安全性が担保されない。低速から何度も繰り返し練習を行えば安全に速く抜くことはできるが、それが目的なら他にもよい選択肢はたくさんある。Blackhawk社自体、SERPA以外にも様々なホルスターをラインアップしている。
もちろんこれはSERPAホルスターの限界が低いことを意味しているわけではない。例えばこちらの動画では競技シューターのトッド・ジャレットが、SERPAホルスターから1秒以内に抜いてドライファイアするデモを行っている。
Todd Jarrett .60 Draw From A Serpa Holster! - YouTube
しかし大ベテランの彼ですらもデモ中にアンロックをミスする。スクールに行くようなレベルの人については言うまでもないだろう。ひとくくりに「危険だ」とするのは間違いだが、「安全だ」というわけでもない。様々なレベルの人間が使用するものである以上、慎重な判断が必要である。
Text: Chaka (@dna_chaka) - FM201603
Chaka (@dna_chaka)
世界の様々な出来事を追いかけるニュースサイト「Daily News Agency」の編集長。
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