ニューヨークタイムズは15日付の記事で、イランの核開発に大きく急ブレーキを掛けた状況として、イスラエルによるサイバー攻撃を挙げ、イランの核関連施設がウィルスに感染した可能性があることを報道した。

イスラエル南部の砂漠地Dimona(ディモナ)では、その南東の位置にあるNegev原子力研究センターがイスラエルの核開発における中枢だ。2年前に遡ってみると、核軍事に精通している専門家らによる見解として、ディモナでは秘密裏に米国とイスラエルによる、イラン独自の核兵器開発を間接的に攻撃する取り組みが行われていたとしている。

そこで開発された「Stuxnet(スタックスネット)」と呼ばれるウィルスが、イランのナタンツにあるウラン濃縮核施設と同様の設備を整えた上で、その効果が試されていたという。

米国保守系シンクタンクのハドソン研究所(Hudson Institute)によると、欧州での核兵器の闇取引が活発化しているとし、テロ活動を肯定する国家や団体への流出に警鐘を鳴らしている。
イスラエルの抹殺を公言し、強硬派の代表とも言えるイランのアマディネジャド大統領は、核の力に魅せられた一人だ。事実上、中国のコントロール下にあると目されている北朝鮮と違い、独自路線を突き進むイランの場合、核のボタンに手を掛ける可能性が極めて高いとして注目されている。また、イランが自らの手による核の実行だけでなく、第3国への水面下の流出が最も懸念されている。

強大な核の力を、銃弾やミサイルといった目に見える攻撃ではなく、デジタルの力で封じた格好の今回の事件は、これから近い将来における軍事のあり方を物語っている。
人類は従来の陸・海・空から、サイバー空間、宇宙空間へと戦争の領域を拡大しているのだ。

DoD(米国防総省)は、コロラド州シャイアン・マウンテンにある北アメリカ航空宇宙防衛司令部(NORAD：North American Aerospace Defense Command、ノーラッド)をサイバー戦司令部へと切り替えている。また中国でも同様に、サイバー攻撃のための部隊として、総参謀本部に第3部及び第4部が設けられている。
サイバー空間、宇宙空間共に陸海空と違い、「国境」の概念が無い為に、軍事大国を中心に各国の思惑が大きく火花を散らしている。

また、サイバー攻撃の場合、その攻撃の特性上、国家対国家の「対称的な脅威」だけでなく、テロリスト団体や武装集団など、非国家体との間に生じる「非対称脅威」にも注力しなければならない。

サイバー空間を巡るこうした国際的な情勢を受け、本日(1月20日)防衛省において発表された「我が国の防衛と予算－平成23年度予算の概要」の資料中には、サイバー攻撃への統合的な対処の中核という位置付けで「サイバー空間防衛隊(仮称)」を平成24年度末の新編に向けて準備要員を確保するとしている。


参考記事：
http://www.nytimes.com/2011/01/16/world/middleeast/16stuxnet.html
http://www.hudson.org/files/documents/weitz%20complete.pdf
http://yoshiko-sakurai.jp/index.php/2010/02/11/%e3%80%8c%e3%80%80%e9%b3%a9%e5%b1%b1%e6%96%bd%e6%94%bf%e6%96%b9%e9%87%9d%e3%81%ae%e3%81%82%e3%81%be%e3%82%8a%e3%81%ae%e7%a9%ba%e7%96%8e%e3%81%95%e3%80%80%e3%80%8d/
http://www.norad.mil/
http://www.mod.go.jp/j/yosan/2011/yosan.pdf