MV-22Bと米海兵隊の揚陸作戦ドクトリン その2

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MV-22Bと米海兵隊の揚陸作戦ドクトリン その2
立体包囲攻撃とヘリコプター
MV-22Bと米海兵隊の揚陸作戦ドクトリン その2現在の米海兵隊のやり方では、海岸に強襲揚陸を仕掛ける前段階として、陸地に設けられた敵防衛線の背後に降着地点(LZ : Landing Zone)を設定、そこにヘリで兵員を投入する方法をとるのが一般的だ。これは、滑走路がなくても発着できるヘリコプターの登場で実現可能になった手法である。

そこで用いるヘリが、中型ヘリコプター飛行隊(HMM)に所属するCH-46Eシーナイトであり、その後継機となるMV-22Bオスプレイである。米海兵隊には大型ヘリコプター飛行隊(HMH)に所属する輸送ヘリとしてCH-53Eスーパースタリオンもあるが、これは大きな搭載力を活用してLAV装甲車や155mm榴弾砲(M198またはM777)を空輸するために使用するもので、基本的には兵員輸送用ではない。後継機のCH-53Kも同様である。

さらに、軽ヘリコプター飛行隊(HMLA)に所属する攻撃ヘリとしてAH-1WスーパーコブラやAH-1Zヴァイパーがあり、これは輸送ヘリの掩護機として使用する。同じHMLAにはUH-1N、あるいはその後継機となるUH-1Yベノムも配備しているが、これは空中指揮や負傷者後送に使用する機体だ。あくまで、海兵隊員の空輸を担当するのはCH-46EやMV-22Bである。

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流れとしては、AH-1W/ZでLZを制圧して、そこにCH-46E/MV-22Bが海兵隊員をLZに降ろして確保、さらにCH-53E/Kで榴弾砲や砲弾などを空輸して火力支援体制を整える、という順番になるだろう。もちろん、必要に応じてAV-8BハリアーIIによる上空掩護や近接航空支援も実施する。

MV-22Bと米海兵隊の揚陸作戦ドクトリン その2こうして陸上に橋頭堡と火力支援の拠点を確保したところで、いよいよ海岸線に対して揚陸艇や水陸両用車による上陸を仕掛けるというのが、一般的なシナリオのひとつとされる。順番としては航空強襲が先になるので、まず沖合からヘリを発進させて立体包囲攻撃を実施、その後で揚陸艦隊が海岸に接近して揚陸艇や水陸両用車を発進させる、という流れになる。

なんにしても、ヘリで兵員や火砲を敵の防衛線の背後に下ろすということは、海岸線への達着以上に進出距離が長くなるということである。しかも、上陸作戦の目標となる海浜の真上を飛べば危険が大きいし、味方の艦砲射撃などに巻き込まれる危険性もある。だから、立体包囲攻撃を担当するヘリコプターは迂回経路をとる必要があり、飛行すべき距離は艦とLZを結ぶ直線距離よりも長くなる。そのため、立体包囲攻撃に使用するヘリは、長い航続距離と高速性能を備えるに越したことはない。

また、掩護のことを考えた場合にも高速性能が求められる。ヘリの足が遅いと、たとえハリアーでも戦闘機の随伴は難しくなるし、攻撃ヘリでは対空戦闘能力に限界がある。AH-1W/Zの仕事はあくまで、LZの制圧が中心と考えた方がよいだろう。ただし、ヘリコプター相手の空中戦であれば、ハリアーよりもAH-1W/Zの方が有利だ。

水平線以遠から迅速に強襲する手段の追及
MV-22Bと米海兵隊の揚陸作戦ドクトリン その2米海兵隊ではこうした事情から、「水平線以遠から発進して高速で海岸に達着する手段」を追求してきた。最高速度11ノットのLCUに代わって常用速度40ノット(74km/h)のLCAC(Landing Craft, Air Cushion)を配備したのは、その現れのひとつだ。ただし、LCACは速力こそ速いものの航続距離が長くないため、揚陸艦をどこまで海岸から離せるかどうかは、LCACの航続距離で決まってしまう点に注意する必要がある。

なお、LCACについては後継となるSSC(Ship-to-Shore Connector)をテクストロン社が開発する話が決まったばかりだが、実用化までには時間がかかるので、当面はLCACの延命改修でつなぐことになっている。SSCはLCACと比べて極端に高速化するわけではないので、両者は基本的に同じものとみなしてよいだろう。

MV-22Bと米海兵隊の揚陸作戦ドクトリン その2AAV7の後継としてEFV(Expeditionary Fighting Vehicle)を開発したのも、同じ考え方による。EFVは固有乗員3名に加えて17名の海兵隊員を乗せることができ、防禦力の面ではAAV7を上回る。そして、EFVの浮上航走速度は25kt(46km/h)もあり、AAV7と比べると3倍以上速い。高速で浮上航走できるようにすることで脆弱性を低減して、さらに遠方からの進出を可能にする狙いがある。そのために、履帯を車内に収容してカバーをかぶせるだけでなく、さらに前面にフラップを展張して抵抗を低減、その上でウォータージェットで推進する、なんていう凝ったメカを備えた。

ただし、EFVの浮上航行可能距離は40km程度と短めだが、これは燃料搭載量ではなくてエンジン負荷の問題に起因している。だから、途中でエンジンを休ませることができれば、もっと遠距離の進出も可能になると考えられる。

ところが、高速性を追求したための凝り過ぎた設計が仇となったのか、EFVは経費高騰と開発の難航、スケジュールの遅延に見舞われて、開発中止に追い込まれた。代わりにACV(Amphibious Combat Vehicle)を開発する方向だが、まだ概念段階であり、実戦配備までには相当な時間がかかる。そのため、当面はAAV7を使わざるを得ない状況に陥っているのが辛いところだ。

MV-22Bと米海兵隊の揚陸作戦ドクトリン その2
空の上でも事情は同じである。兵員を輸送する手段としてはEFVがCH-46に、車両や火砲などを輸送する手段としてはLCACがCH-53に相当すると考えればよいだろう。しかし、CH-46EにしろCH-53Eにしろ古くなってきており、保守に手間がかかったり、稼働率が低下してきたり、といった問題が起きている。そこで、CH-46EはMV-22Bオスプレイに、CH-53EはCH-53Kに、それぞれ代替する計画を進めているわけだ。

これらの装備更新状況を一覧にまとめると、以下のようになる。
海岸線への上陸後背地への立体包囲攻撃
海兵隊員の輸送手段AAV7 → EFV/ACVCH-46E → MV-22B
車両・火砲などの輸送手段LCU → LCAC/SSCCH-53E → CH-53K
指揮・統制手段(揚陸艦の指揮統制施設が担当)UH-1N → UH-1Y


CH-46Eに対するMV-22Bの優位点
MV-22Bは24名、CH-46Eは25名の海兵隊員を乗せることができる。これだけなら能力的には同等とみなしてよい。1個海兵大隊(約900名とされる)を揚陸するには、12~15機で編成する飛行隊が3往復すれば事足りる計算になる。

MV-22Bと米海兵隊の揚陸作戦ドクトリン その2ところが、両者の巡航速度には2倍近い違いがある。具体的にいうと、CH-46Eは130ノット程度、MV-22Bは250ノット程度だ。高速で飛行できるMV-22Bは、進出距離が同じならCH-46Eよりも迅速に進出できる理屈だ。すると、同じ時間の間に輸送できる海兵隊員の数が増えることになるので、それだけ「足場固め」を迅速にできることになる。これは、立体包囲攻撃において各個撃破されるリスクを低減するためには重要な要素といえる。

単純に考えれば、巡航速度が2倍になれば輸送にかかる時間が半減することになりそうだが、実際にはそこまで少なくはならないだろう。というのは、海兵隊員の乗機・降機にかかる時間はあまり違わないはずだからだ。機体の高速化によって短縮できるのは移動時間だけである。それでも、無視できない効果があるのは間違いない。特に、進出する距離が長ければ長いほど、MV-22Bの速さが効いてくる。

このほか、同じ時間をかけるのであれば、より遠方に進出できることになる、という見方もできる。その分だけ発進地点を沖合に寄せて、揚陸艦隊の安全性を高める用法も可能になる。発進地点が同じであれば、進出可能な範囲が広くなり、立体包囲攻撃を仕掛けるためのLZの選択肢が広くなる、という考え方もできる。

後者の場合、それだけ敵軍にとっては防禦すべき範囲が広がり、部隊配備・陣地構築計画の立案が難しくなるだろう。といっても実際には、あまりLZを海岸線から離してしまうと上陸部隊との連携が難しくなり、各個撃破される危険性があるので、限度というものがある。そもそも、上陸地点の海岸を榴弾砲の射程に収めていなければ、立体包囲攻撃によって海兵隊員と榴弾砲を送り込む意味がなくなってしまう。

MV-22Bと米海兵隊の揚陸作戦ドクトリン その2
なお、CH-46Eと比較したときのMV-22Bのメリットとして、上昇限度の違いも挙げられる。どちらの機種も、実用上の上昇限度は1万フィート程度で差がないように見えるが、実はMV-22Bの上昇限度は機内の与圧の関係から決まってくる数字で、機体としての性能に起因する制約ではない。そのことから、高度を上げた場合、あるいはアフガニスタンのように標高が高い場所で運用する場合には、MV-22Bの方が余裕があると考えられる。もっとも、標高が高い場所で両用戦を仕掛けることはなさそうだが、海兵隊はいつも両用戦ばかりやっているわけではない。

問題解決への糸口は?
このように、MV-22Bがティルトローターという形態をとった背景には、「より遠隔地から、より迅速に揚陸作戦を展開できる機体」を希求してきた米海兵隊ならではの事情がある。伊達や酔狂で高速性能や航続性能を追及したり、ティルトローターという形態を選択したりしたわけではないのだ。

一般的なヘリコプターには、御存知のようにローター失速という問題があるので、MV-22B並みの速度を発揮することは不可能である。だから、単純に「CH-46Eと同等の搭載能力があるヘリコプターならMV-22Bの代わりが務まる」という話にはならない。

MV-22Bと米海兵隊の揚陸作戦ドクトリン その2そもそも、普天間基地とMV-22Bをめぐる問題の根底には、市街化してしまったエリアの中に海兵隊の航空基地が存在する問題がある。たとえMV-22B以外の機体を配備したとしても、程度に違いはあるだろうが、事故の危険性は残るのだ。MV-22Bにだけ「100%の安全性」を求めるのは暴論もいいところだが、だからといって現状のままでMV-22Bの配備を強行して、それですべてが解決するというわけでもない。

「MV-22Bはエンジンが停止したときのオートローテーションが云々」などと主張する向きもあるが、そもそも普通のヘリコプターでもエンジンが停止すれば危険である。単に事故の件数がどうとか、あるいは事故率がどうとかいう話をするだけではなく、まずは「一般的なヘリコプターや固定翼機にも共通するリスク要因」と「MV-22Bのようなティルトローター機にだけ存在するリスク要因」を分けて論じる必要があるのではないか。

さらにその続きとして、「開発や熟成が進めば解決できる可能性があるリスク要因」と「根本的にティルトローター機である限りは付随するリスク要因」に分けて論じる必要もある。本気でMV-22Bの安全性について議論するのであれば、そういうアプローチを取らなければならないのではないだろうか。

そもそも、根本的な筋論からすれば、配備する機体の話よりも、普天間基地の移設による問題解決を促進するべきであろう。ただしそれには時間も手間も費用もかかるから、当面はMV-22Bを配備する代わりに運用面の制限、あるいは工夫によって市街地にトバッチリが及ぶ危険性をできるだけ低減するのが、現実的な落としどころではないだろうか。
たとえば、比較的リスクが大きいと考えられる、ヘリコプター・モードと固定翼機モードの転換を行う場所を、洋上、あるいは特定の空域に限定する方法が考えられないだろうか。

TEXT : 井上 孝司

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