特集:米軍特殊部隊 ― アメリカ陸軍特殊部隊 USASOC編

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特集:米軍特殊部隊 ― アメリカ陸軍特殊部隊 USASOC編
Photo by U.S. Army
映画やTV番組などのフィクションにおいて「グリーンベレー」こと、アメリカ陸軍特殊部隊は、人気のある部隊の一つだ。古くはジョン・ウェイン主演の映画「グリーンベレー」やTVドラマ「特攻野郎Aチーム」から、現在に至るもグリーンベレー出身の登場人物が出て来る物語は実に膨大であり、それは彼らのアメリカの特殊作戦における長い歴史と信頼を表したものである。今回はそんな彼らについて紹介する。
成立
特殊部隊の任務は「不正規戦闘(UW)」と「直接行動(DA)」に分けられるのは、これまでの海兵隊特殊部隊MARSOCや空軍特殊部隊AFSOCでの特集で何度か触れてきた。ARSOCはそのモットー「De oppresso liber(抑圧からの解放)」が示すとおり体制に対するゲリラ戦、すなわち前者を主な任務とする部隊である。

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その活動は、第2次世界大戦において中央情報局CIAの前身である戦略諜報OSSが展開したフランスの対ナチ抵抗運動を形成する「ジェドバーグ作戦」までさかのぼる。ドイツ軍に対するサボタージュ活動と、レジスタンス部隊の教育・編成は、まさしく今日のARSOCの任務のベースとなっている。

第2次世界大戦後はヨーロッパ、東南アジアを中心に共産主義勢力の拡大に対抗すべく活動する。現在の形になったのは1989年12月1日。陸軍特殊部隊司令部の下に特殊作戦群、MISO(軍事情報支援活動)、Civil Affairs(民軍作戦)の3本柱とこれを支える第75レンジャー連隊、ジョン・F・ケネディ特殊作戦センター/学校、アメリカ陸軍特殊航空コマンドを持っている。

任務
ARSOCの任務の中心は「不正規戦」であるが、これを一言で説明するのは難しい。例えば直接的・短期的な攻撃において敵国の市民は接触を避けるべき障害物であり、攻撃の成否はターゲットへのダメージで図られる。しかし不正規戦では、直接的な打撃が必要になることはあるもののそれ自体が目的ではない。市民との接触を通じてネットワークを作り上げ、敵国のアメリカに対する姿勢を変化させるのが不正規戦である。

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こうしたことから戦闘だけではなく自国・他国政府の外交部門や情報機関との連絡・調整・助言、政治安定のための行政支援も含まれる。究極的には敵国を倒し、新しい国を立ち上げる、あらゆる手助けをするための技術がある。

ドミニカ軍に室内戦訓練を施すARSOC隊員
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また、陸海空・海兵隊特殊部隊からの人員を受け入れ教育するのも任務である。ジョン・F・ケネディ特殊作戦センター/学校は実に64コース、1万6千人に対して訓練を施す一大教育機関である。

JFK特殊作戦センターは、海外からの生徒も受け入れている。
写真は特殊部隊選抜過程に参加しているカナダ軍兵士。
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組織
アメリカ陸軍特殊作戦司令部は、4つの組織を参加におさめている。すなわち第1特殊作戦コマンド、第75レンジャー連隊、ジョン・F・ケネディ特殊作戦センター、アメリカ陸軍特殊作戦航空コマンドである。

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■第1特殊部隊コマンド
現場で作戦を遂行するすべてのエレメントが属している。5つの特殊作戦群(SFG)、2つの軍事情報支援活動軍(MISG)、民事作戦を行うCA旅団、サポートを行う第528旅団からなる。情報部門と実行部門が一体となった大規模ながらスリムな組織であり、拠点から離れた敵対的なエリアで長期の作戦活動が可能である。

第1特殊作戦コマンドの任務分野は以下のとおり
1. 不正規戦
2. 国外内的防衛
3. 保安部隊支援
4. 対内乱活動
5. 直接行動
6. 特殊偵察
7. 対テロ作戦
8. 大量破壊兵器拡散阻止
9. 作戦行動準備……直接的行動が円滑に行われるよう準備をするため情報活動

■■特殊作戦群(空挺)
特殊作戦コマンドの実行部隊の中で最大サイズとなるのが「群」で地域ごとに5つの現役部隊が置かれているほか、2つの州軍特殊部隊群を教育・監修している。司令部中隊、サポート大隊、4つの特殊作戦大隊(Aチーム)で構成されている。司令部機能と補給機能を独自でもつことで長期間の作戦行動を単独で行えるため、その他特殊部隊との合同作戦の際はその「核」として中心に据えられることが多い。

特殊作戦群の構成はこの通り。チームごとに陸路、空路、水路等専門とする潜入経路があり、投入地域に合わせて選ばれる。なお、全員が空挺降下資格を持っており、ここからCA、MISGに向けて資格を取得する。

山岳戦訓練を行う特殊部隊員
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典型的な特殊作戦群は4つの大隊がそれぞれ3個中隊をもち、その下に12名で構成される「アルファ分遣隊=Aチーム」を複数持っている。
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ARSOCの活動はAチームを最小の単位として行われ、その他すべての部隊はこのAチームを支援するために存在する。

1個ODAの編成は以下の通り
1. 分遣隊指揮官 大尉 18A
2. 分遣隊副指揮官 准尉 18A
3. 作戦軍曹 曹長 18Z
4. 上級武器軍曹 一等軍曹 18B
5. 下級武器軍曹 二等軍曹 18B
6. 上級軍医 一等軍曹 18D
7. 下級軍医 二等軍曹 18D
8. 情報軍曹 一等軍曹 18F
9. 上級工兵 一等軍曹 18C
10. 下級工兵 二等軍曹 18C
11. 上級通信軍曹 一等軍曹 18C
12. 下級通信軍曹 二等軍曹 18C

それぞれのメンバーが英語の他に2カ国語をマスターしている。さらにMOS外の様々な技能を習得しており、不測の事態に遭遇した時に備えている。

なお、近年緊急即応部隊としてその名前をみかける「CIF(Commanders In-extremis Force……司令官直轄部隊)」は、当初ヨーロッパを担当する第10特殊作戦群の第1大隊チャーリー中隊(C110)であったと言われる。現在はどのような規模となっているか不詳であるが、陸軍特殊部隊上級課程においてCIF要員を育成する「特殊部隊応用偵察目標分析・発見技術コース(SFARTAETC)」募集要項には「現在はCRF(危機即応部隊)と呼ばれている」という記述がある。

訓練中のCIFと言われる写真。いわゆる「アサルター」や爆発物の専門家を中心に構成され、人質事件など緊急の直接行動が必要な際に派遣される。
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■■軍事情報支援グループ(MISG)
ARSOCの中でも「心理作戦(PSYOP)」を中心に行う部隊である。「特殊部隊が変化をスタートさせ、心理作戦が変化を持続させる」という言葉があるが、不正規戦においては敵勢力圏内の一般人とのネットワークを構築・維持し、部隊の置かれた環境を整備することが重要となる。特にサイバー空間におけるPSYOPもMISGが担当しているようだ。

平時にあっては一般市民に米軍・米政府のメッセージを届け友好的な関係を築き、戦時には彼らの力を利用して戦力を倍加させる。PSYOPの目的はそこにある。

■■民事作戦旅団(Civil Affair Brigade)
「スパイ」に近い活動を行うMISGに対し、CAでは周囲の社会を安定化させるための行動を行うことで一般人からの支持を得ることが目的になる。現役の5個特殊作戦群と同じく地域ごとに5つの大隊に分けられ、それぞれの中隊の中の4人1組のチームが現場での活動を行う。

地元有力者に技術を提供し、その協力を得ようとするのがCAの要諦である。
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以下の5つをコアタスクとしている。

人口・リソースコントロール
誰が友好的で誰が敵対的なのか分からないのが不正規戦である。地域の統治主体が人口やリソースを把握し、コントロールするのを支援することで、敵・味方を峻別し、不正規戦における不確定要素・リスクを下げようとする試みである。

具体的には住民登録や、免許、許可証発行、地域の出入りの検問の実施、物資のコントロール等を行い、敵対勢力の浸透を防ぐ。

人災・天災に対するサポート
災害の際のサポートは、一般市民に対し短時間で強い印象を与え、しかも長時間持続することから、不正規戦では有効な戦略である。特に医療サポートは住民のコミュニティに入っていくのに重要であることが、既にベトナム戦争の時代から提唱されていた。

主権維持支援
持続可能な安定を得られるよう、統治者に対してプログラムを提供する。警察・対ゲリラ軍の養成を行う「FID(国外内的防衛)」やこれらとの合同訓練のコーディネートなどがある。

行政支援
行政力の復活・強化を通じて地域の安定を目指す。この活動を行うことで、特殊部隊軍と統治者のコネクションを維持することができる。

情報収集活動
一般市民を対象に情報を収集、分析を行うことで地域の全特殊部隊が敵対勢力の情報を得られると同時に、民事作戦の効果測定を行う。

■JFK特殊作戦センター・スクール
エントリーレベルから上級課程までARSOC全体の訓練を行うほか、戦略・戦術の研究を行う機関である。ARSOCの能力の要である。教育を行うのは「特殊作戦訓練群(SWTG)」と「特殊作戦教育群(SWEG)」である。

SWTG
基礎的な訓練を行い、特殊部隊としての専門的な教育に備えるグループで6個訓練大隊と1個サポート大隊からなる。それぞれの担当は以下の通り。

第1大隊……エントリーレベル向けの戦闘訓練
第2大隊……海外部隊との訓練を前提とした現役隊員等向けの訓練
第3大隊……士官、下士官を対象とした民事作戦訓練
第4大隊……選抜コースである「Qコース」を担当
第5大隊……MISO訓練
第6大隊……SOCに諜報・作戦技術を教育。

SWEG
特に民事作戦・心理作戦に関する教育を行う。部隊員に対し大学の学位取得を支援し、将来の教官の育成を行うのもSWEGである。

■第75レンジャー連隊
不正規戦能力に長けた特殊部隊群に、直接的な打撃能力を付与することを目的に組織された部隊。3個大隊と偵察大隊(Regimental Special Troops Battalion RSTB)からなる。18時間で1個大隊、72時間で残り2個大隊を展開することができ、単体で約5日間の作戦に従事できる。

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最も典型的な任務としては空港、あるいは航空機が離発着できる飛行場を確保することがあげられる。特殊部隊が捕虜奪還作戦を行う際には脱出点が必要となるし、逆に侵攻作戦では後続部隊のエントリーポイントとなるからである。

■アメリカ陸軍特殊作戦航空コマンド(USASOAC)
ARSOCに空輸能力と近接航空支援(CAS)を付与する。有名な「ナイトストーカーズ」こと第160特殊航空連隊で知られる。特に回転翼機の操縦能力が高く、最近では無人機運用能力も得た、未だ成長中の部隊である。

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選抜
「グリーンベレー」の合格率は他の特殊部隊と同様に志願者の数%という「狭き門」である。「A&S」と呼ばれる19日間の選抜試験を突破した上で「Qコース」と呼ばれる36週間の認定コースを卒業すればARSOCに配属されることはできる。

「A&S」では体力・精神力の限界をテストされる。
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なお、以前は志願までに3年間の軍歴が必要であったが、現在は陸軍に入隊後、基礎訓練が終了すればすぐ「18x 特殊部隊員候補生」として選抜に参加できる。18xと州軍からの志願の場合はSFPCと呼ばれる24日間の体力錬成コースを突破する必要がある。

以下は現在のQコースである。フェーズごとの内容・順序はかなりの頻度で入れ替わるようだ。
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隊員はQコース終了後も様々な訓練・技術習得コースに参加することになる。こうした多様な人材が一つのチームとなることで、不測の事態にも対応できる部隊が出来上がる。
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ところでQコースの中にはホワイトハウスの大統領執務室訪問も含まれる。例年は大統領副補佐官が迎えるが、今年はドナルド・トランプ大統領自らが出迎え、一人ひとりと記念写真を撮ったという。アメリカを取り巻く混沌をコントロールし、脅威の芽をひっそりと摘み続ける彼らグリーンベレー達は、まさに正統派の特殊部隊なのである。


Text & Graphic: Chaka (@dna_chaka)
Chaka (@dna_chaka)
世界の様々な出来事を追いかけるニュースサイト「Daily News Agency」の編集長。


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