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米紙、L3・EOTech の欠陥ホロサイト問題について裁判資料に基づき時系列を紹介

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米紙、L3・EOTech の欠陥ホロサイト問題について裁判資料に基づき時系列を紹介
Photo Credit: Staff Sgt. William S Waller (4th ID)
ワシントンポスト紙は、昨年 11 月 に米政府との間で和解を発表した L3 コミュニケーションズ社および EOTech 社における、一連の同社ホログラフィックサイト (HWS: Holographic Weapon Sights) の精度が著しく粗悪だった件について「特殊作戦に従事する部隊や海兵隊において、いまだに使用されている」とした記事を掲載した。

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また記事では、訴訟の間に提出された裁判資料に基づき、苦情が寄せられた 2000 年代中盤から現在に至るまでの実情を時系列に沿って紹介している。この問題については、何度かに渡って既報となっているので、回顧しながら要点を掻い摘んでみる。

①低温環境下での問題
裁判資料によると、2007 年の冬にノルウェー軍との契約獲得を試みていた同社だったが、ノルウェー側が温度によって照準線が膨張・変形し、精確な射撃の実現が出来ないという問題点を見出していた。米政府側は裁判の中で、「近く米政府との間に大規模な納入契約を控えていた同社は、寒気の中での問題を解決しようとしたものの、この問題について事実を伏せたまま契約に持ち込んだ」と主張していた。

②高湿度環境下での問題
2008 年春、EOTech は米軍に対して問題を提示し、解決策があることを示していたが、その一方で、湿気の多い環境下での使用にも問題が発覚してしまう。密閉が不完全だったことから、湿気が内部に蓄積してしまい、照準線周辺のガラス材や照準線そのものが曇って見え難くなる現象を引き起こしていた。

政府側の主張では、この問題について同社は事実を把握しながらも、2013 年 3 月までの数年間に渡り放置し続けていたと糾弾している。

YouTube などでこうした問題がアップされ続けていく中、同社は 2014 年 7 月に「この別途指摘があった問題についても同様に解決済」だとして国防総省へ陳述に上がっている。もちろん、これまでに発覚した「低温環境下での問題」「高湿度環境下での問題」共に解決済である事実は無く、裁判資料では、問題が大きく膨れ上がっていくその状況に社内が戦々恐々となっていたことが報告されている。

③サーマルドリフト (thermal-drift) の問題
そしてこれだけにとどまらず、2014 年末には更なる問題が追い打ちを掛けている。同じくホロサイトを使用している FBI が、所有する施設の中でおこなっていた試験の最中に偶然、高温または低温度がレティクルの移動を引き起こしていることを発見している。

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米紙、L3・EOTech の欠陥ホロサイト問題について裁判資料に基づき時系列を紹介
Photo: via FBI
海軍海上戦闘センター (NSWC: Naval Surface Warfare Center) / クレーン (CRANE) に手助けを求め、問題の究明をおこなった FBI は、EOTech に対して問題を提起している。これが所謂「サーマルドリフト (thermal-drift) 」となっている。このサーマルドリフト現象により、射手が 300 フィート (=約 91 メートル) の距離で撃った場合に狙った位置から 6 ~ 12 インチ (=約 15 ~ 30 センチメートル) ずれてしまうことが指摘されている。差し迫った状況が展開する戦闘シーンにおいては、射手の生命を危険に脅かすことにも直結するだけに、大きな問題となった。

EOTech ホロサイトについて「詐欺」と断罪した米政府。裁判資料を読む限りでは、仕様やその技術上で抱えていた①~③の問題だけでなく、問題の本質となるのは同社の「隠ぺい体質」にあったのかもしれない。

同紙では、問題となって数ヶ月が経過した現在においても、リコールまたはリプレイスが進んでいない実情が、現職隊員や軍関係筋から指摘されているとし、併せて特殊作戦司令部 (SOCOM) や海兵隊の広報官らから「陸軍・海軍・海兵隊の特殊部隊 (と、一般海兵の間) でいまだ使用され続けている」と紹介している。
(海兵隊では 2007 年から 2012 年の間に 6,000 個を購入)

FBI を含めた幾つかの政府関係機関でも広く採用されてきた同社ホロサイトだが、記事では既に廃棄が始まっていることを伝えており、武器庫から一掃されている状況を紹介している。

2001 年以来、米国の軍隊に広く採用され 2,400 万ドル (=約 29 億円) の売上を計上した EOTech のホロサイト。政府との訴訟の中で、2,560 万ドル (=約 31 億円) の支払いをもって和解している。
2004 年 6 月に国防産業協会 (NDIA: National Defense Industrial Association) と EOTech 社が米政府に対しておこなったホロサイト製品の紹介プレゼン資料によると、同社の技術は、1946 年に創始されたミシガン大学の研究の一部をその起源としている。ホロサイトの基礎コンセプトは下図の通り。

米紙、L3・EOTech の欠陥ホロサイト問題について裁判資料に基づき時系列を紹介
Image: Holographic Gun Sight – Basic Concept / NDIA, EOTech

米紙、L3・EOTech の欠陥ホロサイト問題について裁判資料に基づき時系列を紹介
Image: Holographic Gun Sight – Basic Concept / NDIA, EOTech
当該プレゼン資料ではその結言にホロサイトが持つ特性やアドバンテージを活かすことが示され、以下のサマリーが掲載されている。

・光学的見地、ユーザー特性、ユーザーパフォーマンスの向上などの観点から、近接戦闘 (CQB: Close Quarters Battle) や市街戦 (MOUT: Military Operations on Urban Terrain) において優れた製品である。
・夜間暗視装置 (NV: Night Vision) や拡大単眼鏡 (Magnified) をタンデム装着させてもクリアな視界を確保できる。
・軍用規格のレッドドットサイトと同程度の価格帯に収まる。
・小火器側の改修なしで装着を可能とする適応性。

Washington Post 2016/04/03
"HOLOgraphic Weapon Sight Product Introduction" NDIA/EOTech presentation, June 2004.

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