ヘッケラーアンドコッホ社がドイツ連邦軍の次期制式小銃選定に向けた新型小銃「HK433」を発表
ドイツ政府が連邦軍(Bundeswehr)のG36ライフルに替わる、新たな制式小銃の採用を求めた動きの中で、震源地となった銃器メーカー、ヘッケラーアンドコッホ(Heckler & Koch)社が、新型のライフル「HK433」を発表していたことが分かった。
Photo from Heckler & Koch press release
選定レースにおける「真打ち」登場とも言えるこのビッグニュースは、1月に米国ラスベガスで開催されたショットショーにおいて、限られたメンバーにのみ示されていたようだ。
HK433の特色を詳報している銃器情報専門サイト、ザ・ファイアーアーム・ブログ(TFB: The Firearm Blog)によると、その初報は、ドイツの防衛関連専門誌「欧州防衛技術誌(EST: Europäische Sicherheit & Technik)」2017年 第2号の全面広告が唯一だったとしている。
■H&K社の提案小銃「HK433」
Photo from DPA
HK433は、5.56x45mm NATO弾への対応を筆頭に、7.62x51mm NATO、.300 Blackout、7.62x39mm Kalashnikov弾が用意されるという。また、弾倉については、既存のNATO STANAGと互換性を持つ。なおH&K社のプレスリリースによると、7.62x51mm NATO仕様については「HK231」、7.62x39mm Kalashnikov仕様は「HK123」と呼称されることが示されている。
同社プレスリリースによると、銃身長は、11、12.5、14.5、16.5、18.9、20インチとラインナップされ、「16.5インチモデルで重量は僅か3.5キログラム」としている。また、ハンドガード側面の3時、9時の向きにH&K社特有のKeyMODに似たマウントスロットである「HKeyスロット」が備わることや、ドイツ軍現用のG36シリーズ最新バージョンにみられるIdZショルダーレストと、HK416のストックを組み合わせたようなエルゴノミックでスリムラインが特徴的な、高さ調節を可能とするショルダーサポート機構となっていることが示されている。ストックの長さは5段階調節に対応するとしている。
海外メディアは早くも「HK433は、HK416とG36アサルトライフルの2つの優れた機能を備えている」とし、高い評価と共に紹介している。
■次期制式ライフル選定レースに至った経緯と今後の行方
また、現在までに、ドイツ国際公共放送であるドイチェ・ヴェレ(DW: Deutsche Welle)など国内メディアが、ここ最近の動きなどを交えて、今後の軍調達に至るまでの選定レースの予想を打ち立てている。
価格は未発表ながらも、値段が張り過ぎると言われてきたHK416と比べて、HK433では予算面での問題もクリアできるものと考えられ、「最有力候補」の1つであることは間違いなさそうだ。
G36の後釜を狙った動きはドイツを中心に周辺諸国の銃器メーカーの間で活発化しており、オーストリアのステアー・マンリッヒャー社とドイツのラインメタル社が共同で新小銃「RS556」を提案したことも記憶に新しい。また、シグ・サワー社の参戦も話題に上がっている。
Image: Tom Weber via Rheinmetall/Steyr Mannlicher
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H&K社のノーベルト・ショイヒ(Norbert Scheuch)CEOは、ドイツ通信社DPA(Deutsche Presse-Agentur)のインタビューに対して「アサルトライフルは我々にとって基幹ビジネスであることから、もちろん我が社は軍の入札に参加する予定だ」「来るべきコンペに向けて、とても適した製品を送り出す」と答え、HK433に自信をみせている。
1997年以降、ドイツ軍の制式ライフルとして供給されてきたG36が窮地に立たされたのは、2012年に独シュピーゲル紙の出したスクープにある。その中でG36は「連射した後、加熱した状態において命中精度が極端に落ちる」との情報が寄せられており、このことをきかっけに軍での調査が始まった。そして2015年3月には「弾薬ではなく自動小銃側に問題がある」として国防省が結論付けている。
Photo: ©Bundeswehr/Sebastian Wilke
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しかし、この結論に不服だったH&K社は2016年6月に、「欠陥なんてものは存在しない」として軍の兵站局があるコブレンツの裁判所に訴えを提起。その後、同年9月に「軍の定めた基準を満たした製品が納入されていた」とする裁定が下され、政府側の主張が退けられている。
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こうした裁定が出たにもかかわらず、ウルズラ・フォン・デア・ライエン (Ursula Gertrud von der Leyen) 国防大臣は昨年末、「20年近くに渡って制式小銃に座位しているG36を段階的に廃止し、2020年までに我々は新たな小銃を手にするだろう」明言していた。
©Bundeswehr/Christian Thiel
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現在、ドイツ連邦軍では16万7,000挺のG36が運用されており、リプレイス計画が進行すればまたとないビジネスチャンスとなる。先述のシグ社、ステアー&ラインメタルによる共同提案のみならず、ベレッタやコルトなどの参戦情報も飛び交っているようだ。
しかし、専門家の間では「競合各社の中でも、やはりH&K社が最有力候補だ」「HK433は、昨年に大きな話題となった、フランス軍に向けて供給されるHK416Fよりも更にモダナイズが施されている」とし、太鼓判が押されている。
一方で、H&K社にとって①強力なロビー活動力を持つライバル「ラインメタル社」の出現と、②先日報じられた米陸軍「XM25計画」において開発パートナーであるオービタルATK社から損害賠償を突き付けられた一件など、幾つかの係争案件を抱えたままであるといったネガティブ要素があることから、決して楽観視ばかりもできない事情もクローズアップされている。
Photo: via Heckler & Koch official website
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H&K社は、政府とのバトルが激化していた2015年11月に、財務体制の疲弊に伴って、大株主であり同社のオーナーでもあるアンドレアス・ヘーシェン(Andreas Heeschen)氏が、6,000万ユーロ(=約79億円)を超える自己資金の投入をおこなっており、今回の選定を「勝利」で迎えることは、まさに悲願成就となりそうだ。
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